それぞれの夢を胸に歴史的快挙に挑む2人のヤング女子ボクサー並木月海と入江聖奈…W金メダルもある!
先陣を切るのは入江だ。 「最初は嫌(笑)。めちゃくちゃ緊張するかも。日本の女子ボクサーとして初出場ということに関してはプレッシャーは感じていない。初めて五輪の舞台に上がれるのは誰も経験していないこと。めちゃくちゃ楽しんでいきたい」 目標についてはぶれない。 「出るだけじゃ意味がない。金メダルを獲りたい」 入江は、小学校の頃、母が持っていた人気漫画「がんばれ元気」を読んだことで影響を受け鳥取米子市内のボクシングジムの門を叩いた。メキメキと頭角を現し、UJ大会で優勝し、天才少女ボクサーと評判になったが、中学では陸上部に所属し800mが専門だった。「ボクシングは惰性で続けていた」と当時を回想するが、中3時に東京での五輪開催が決定し「引くに引けなくなった」という。 米子西高校ではボクシングに専念。高2、高3で全日本選手権ジュニアの部で連覇している。日体大に進み、国内の五輪代表を決める一発勝負の「ボックスオフ」で全日本王者の晝田瑞希を下した。 「あの試合前には病んでしまうくらい緊張した。でも今までで一番自分を追い込み、五輪を目指す覚悟が芽生えた。苦しかったが、今となっては強くなるいいきっかけだった」と振り返る。 そのボクシングスタイルは並木とは好対照のボクサーファイターでプロボクサーの動きに近い。 理想のボクシングは「足を使いスピードを生かして左ジャブを当て自分が支配していく」。そして「努力した分だけ。ボクシングのことを考えた分だけパフォーマンスと結果に結びついてくる。そこに喜びを感じられることがボクシングの魅力」という。 入江には大胆な夢もある。 「金メダルを獲って鳥取でパレードをしたい」 鳥取県勢として過去に五輪で金メダルを獲得したアスリートはいない。もし入江が金メダルを獲得すれば、新型コロナの感染状況によるが、実現する可能性はあるだろう。 ただフェザー級は強豪がひしめく階級だ。最大のライバルは第1シードの林ユーティン(台湾)。五輪のアジア・オセアニア予選の決勝で対戦し敗れた。 「林さんが一番の強敵です。林さんは身長が高いので上から潰され、それに抵抗し疲れたところにパンチをもらった。潰されたときにいかに力を使わないか、抜くかを意識している。揉みあいに付き合わずに体力を消費しないこと。林さんはクリンチ際が強いので。あとは気迫です(笑)。でも林さんばかりを見て他のタイプに足元をすくわれてもいけない。いろんな選手に勝てるように練習してきた」 当時は、まだ19歳でフィジカルも作れていなかった。林対策も十分に練ってきたが、クジ運に恵まれ決勝まで対戦しない。また他の有力選手も、林のトーナメントの山にいて入江の金メダル獲りへの視界は良好。本強化委員長も「入江も気持ちが強い。上体が前いきすぎないようにコントロールできれば(メダルを)期待できる」と言う。 1回戦の相手はエルサルバドルの33歳、ヤミレト・ソロルサノ。 「プレッシャーは力になる。このご時世、元気よく試合しているところを見てもらいたい。私と並木でメダルを獲って、ちょっと、どや顔をしたいと思っている」 日程的には、8月3日に女子フェザー級の決勝戦が予定されており、これに勝てば男女を含めて日本ボクシング勢の金メダル第1号となる。 「一番最初の金メダリストになるのも嬉しいけど、緊張から先に解放されるのが良かったかな」と本音も漏れた。 テレビ番組「ジャンクSPORTS」の出演時に明らかになったが、入江の趣味はカエル。タオルやマウスピース入れなどにもカエルがあしらわれていて、“ジャイ子”と名付けたカエルを飼っているという。 「ナショナルジオグラフィックという番組でカエルの企画をよくしているので、そのロケに帯同させてもたいたいな」というのがささやかな夢。メダルを狙う“最強女子ボクサー”がなんとも不思議で可愛い女子大生の顔になった。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)