打倒・那須川天心を胸に女子ボクシングフライ級のメダル候補、並木月海が東京五輪予選代表出場権を獲得
アマチュア女子ボクシングの東京五輪アジア・オセアニア予選へ出場する女子日本代表を決める「ボックスオフ」が8日、東京都板橋区の東洋大総合スポーツセンターで行われ、フライ級は並木月海(21、自衛隊)、フェザー級は入江聖奈(19、日体大)、ライト級は浜本紗也(20、日大)が代表権を獲得。すでに代表権を確定したウエルター級の鬼頭茉衣(鬼頭塗装店)、ミドル級の津端ありさ(西埼玉中央病院)の5人が五輪出場を目指して五輪予選に挑むことになった。開催国の日本は、すでに2枠の出場枠が担保されているが、予選を通過しての5枠獲得が日本の目標。2月に中国であるアジア・オセアニア予選で出場切符を得られなかった場合、5月にパリで行われる世界最終予選へ回ることになる。
153センチのハンデを武器に変え接近戦に工夫
キックボクシング界の”神童”那須川天心から人生を左右する勝負を前にラインが来た。 「頑張って」 並木が子供の頃から一緒に極真空手をやってきた幼馴染。幼稚園の年長から空手を始めた並木が初めて出た関東支部大会の決勝の相手が天心だった。 「試合内容はあまり覚えていないんですが、負けちゃいました。小学校でも2回空手の試合で対戦して全部負けています」 小学校4年では天心に誘われ、「軽い気持ちで」キックボクシングもやり、高校時代には、天心のジムへ行き、手合わせをしたことも。 「(天心は)格闘技界で有名になって引っ張ってくれている。憧れというよりも抜かしたい」 それが戦う理由のひとつだった。 第1ラウンド。小刻みに前後、左右に動きながら、隙を見つけ、まるでストレートのような右のジャブを飛び込むようにヒットさせていき全日本王者の河野沙捺(渡辺熔接所)を翻弄した。サウスポー同士の対戦となったが、河野の深い懐に入って、当てては動き、動いては当ててを根気よく続けていく。身長は?と聞かれて「153センチ、盛ってません」という小さな並木が距離を完全に支配した。 世界選手権出場者と全日本覇者がワンマッチで雌雄を決する「ボックスオフ」では、採点の透明性を確保するため、オープンスコアが採用されモニターに途中経過が映しだされた。 この第1ラウンドは5人のジャッジ全員が並木を支持。第2ラウンドは、当然、劣勢の河野が前に出てきた。だが、並木は引かずに肉弾戦に応じた。体を密着しての接近戦が増えたが、並木は腕を使って、うまく空間を作り、そこで右のボディを打ちこんでいく。その第2ラウンドも3-2で並木がとった。 内弁慶ならぬ外弁慶が悩みだった。 昨年、カザフスタンで開催された大統領杯で優勝、その勢いのまま世界選手戦で銅メダルを獲得した。今年5月にはロシアで行われた「コンスタンチン・コロトコフ記念国際トーナメント」の51キロ級で金メダルを獲得、10月にロシアで行われた女子世界選手権でもベスト8に入るなど、五輪メダル候補と呼ばれるほど、海外で強い選手だが、なぜか、全日本では2年続けて敗れ、国内では最強ではなかった。河野とは公式戦で1勝1敗。今年の世界選手権の選考会では勝ったが、いずれも接戦だった。なぜ海外で勝てて国内で勝てないのか。自問してひとつの結論を出した。 それが接近戦での戦い方だった。 「海外選手は近場になったときに戦う選手、しっかりと打つ選手が多い。だから、こちらも接近戦でパンチを打てたんですが、日本人はブレイクするまで待つんです。接近戦で打ってこない。だから日本人同士の対決となると自分も休んでしまい、待ってしまっていたんです。だから、今回は、海外での試合のように接近戦でもしっかりと打つ。そこでも手を出し続けてボクシングをすることを心掛けました。そこで打つようにすると展開が変わってきました」 加えて、全日本を優勝した河野の戦いを分析すると、「接近戦が多く、そこで相手のスタミナを崩して勝利していた」。練習では、この展開を想定してクリンチワークを多く取り入れた。 「実際、圧は強かったんです。でも、しっかり打つことだけは意識した。練習してきた右のボディも意識して打てたと思います」 体格で負けて、何度もキャンバスに転がされたが、並木の動きは止まらなかった。