不可解なペナルティに「少し混乱」/小林可夢偉の得意技/圧倒の『アベレージ最速男』etc.【WECオースティン決勝後Topics】
アメリカ・テキサス州オースティンに位置するサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)で9月1日に行われたWEC世界耐久選手権第6戦『ローンスター・ル・マン』では、AFコルセの83号車フェラーリ499P(ロバート・クビサ/ロバート・シュワルツマン/イーフェイ・イェ)が初優勝を飾った。 【写真】決勝レース中、ガレージで修復を行う12号車ポルシェ963(ハーツ・チーム・JOTA) 決勝を終えたCOTAのパドックから、各種トピックスをお届けする。 ■WEC史上2番目の僅差フィニッシュ。1番は? 日曜日の『ローンスター・ル・マン』は、WEC史上2番目の僅差のフィニッシュとった。6時間のレースを終えてチェッカーフラッグを受けた時点で、シュワルツマンの83号車フェラーリと小林可夢偉の7号車トヨタGR010ハイブリッド(トヨタGAZOO Racing)の差は、わずか1.780秒だった。 ちなみにこれまでの最僅差のフィニッシュは、2017年のCOTAでマークされている。このときは、2台のポルシェ919ハイブリッドの差はわずか0.276秒だった。 83号車フェラーリの勝利は、第3戦スパ・フランコルシャン6時間レースでのハーツ・チーム・JOTAの勝利に続き、ファクトリー車両以外による今季2度目の快挙となる。また、これはフェラーリにとって499Pでの3度目の勝利であるが、ル・マン24時間レース以外では初めての優勝となっている。 シュワルツマン、クビサ、イェはいずれもWECで初の総合優勝を果たしたほか、イスラエル、ポーランド、中国のそれぞれの国籍における、初の優勝となっている。また、クビサはマーク・ウェーバー、フェルナンド・アロンソに続き、WECとF1の両方で総合優勝を果たした史上3人目のドライバーとなった。 特筆すべきことに、フェラーリは、F1とスポーツカーの世界選手権レースで同日に優勝した初めてのメーカーとなった。シャルル・ルクレールは同日、モンツァで行われたF1イタリア・グランプリで優勝を遂げていた。 ■今季3番目のLMGT3ウイナー・メーカー ハート・オブ・レーシングチームのイアン・ジェームス/ダニエル・マンチネッリ/アレックス・リベラスの3人の手により、アストンマーティンはポルシェとBMWに続きLMGT3で優勝した3番目のメーカーとなった。 これは、この英国ブランドにとって通算53回目のWEC優勝であり、TFスポーツが2022年の富士6時間レースでLMGTEアマを制して以来の勝利となった。 ■“83号車フェラーリの方が速かった” イエローフラッグをリスペクトしなかったとのジャッジにより7号車トヨタのクルーが勝利の可能性を失ったドライブスルーペナルティを振り返り、トヨタGAZOO Racing・ヨーロッパのテクニカルディレクター、デビッド・フルーリーは、違反が起きたターン11を立ち上がる際に、明らかにグリーンライトを示していた電子パネルに可夢偉が引っかかった可能性があることを強調した。 フルーリーは次のように語った。 「このセクターのスプリットタイムを見ると、ターン11を出た後で、83号車(フェラーリ)は我々より10分の1秒速かった。だから、彼らがどうやってペナルティを受けずに済んだのか理解に苦しむ。あそこでは、イエローフラッグが振られていたが、グリーンライトも点滅していた。イエローが優先されるべきだと分かっているが、正直言って少し混乱している」 ■ポルシェの責任者、幅寄せのブエミに苦言 ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツのマネージングディレクターであるジョナサン・ディウグイドは、8号車トヨタのドライバーであるセバスチャン・ブエミがバックストレートでケビン・エストーレの6号車ポルシェ963をコースアウトさせたときの彼の運転を否定的に捉えた。 「非常に危険だった」とディウグイドは語っている。 「あそこはサーキットで最も速い部分のひとつであり、その時点で彼はすでに追い越していたので、彼の最終目的が何だったのかは分からない。結局、彼はパンクしてレースから脱落し、その行為でペナルティを受けたので、今後はそこから学んでくれることを願っている」 ブエミはトヨタのレース後のプレスリリース上で、次のようにコメントしている。 「ポルシェと接触してしまったことをチームに謝罪したい。僕のミスで、それが原因でレースを事実上終えることになってしまったのは本当に申し訳なく思っている」 「それまではチームが素晴らしい仕事をしてくれて、12番手スタートから追い上げを可能にしてくれていただけに、チームを失望させる結果になってしまい、言葉もない」 ■フェラーリもペナルティに納得いかず フェラーリの耐久レースカー部門責任者であるフェルディナンド・カニッツォは、51号車フェラーリ499Pのアントニオ・ジョビナッツィと、アーノルド・ロバンの78号車レクサスRC F GT3(アコーディスASPチーム)との間で起きた「愚かな」事故によって51号車がリタイアしたことに失望を表明した。 この事故で499Pの左後輪リムが損傷し、ドライブラインが故障した。フェラーリのハイパーカーが機械的な問題でWECのレースからリタイアしたのは、これが初めてである。 カニッツォはまた、別のLMGT3ランナーである82号車シボレーコルベットZ06 GT3.R(TFスポーツ)がレース後半で50号車フェラーリと接触したにもかかわらずペナルティを免れたのに、ジョビナッツィが前述の事故の責任を負わされたことに驚いたと語っている。 「(スチュワードが)どの基準を使うのかは分からない。たとえばGTカーが50マイルで我々の車に接触したとき、我々はポジションを失い、それ以上の措置は取られなかった」と彼は語った。 「似たような状況で異なる基準があるのも残念なことだ」 ■『可夢偉だけWスティント』の理由 トヨタの2台の中で、COTAでダブルスティントをこなしたのは可夢偉だけだった。マイク・コンウェイとニック・デ・フリースは最初の4時間、7号車のハンドルを交代で握り、ブエミ、ブレンドン・ハートレー、平川亮は8号車を1スティントごとに交代でドライブした。 これについて、フルーリーは次のように説明した。 「今日はかなり暑かったので、ドライバーがクルマに戻る前にクールダウンできる方が良いと考えた。(ダブルスティントをこなすのは)可夢偉の好みで、レースの終わりは少し涼しくなるからだが、彼は誰よりもそれにうまく対処している」 ■メーカー選手権4位はアルピーヌ COTAでの勝利を逃したにもかかわらず、トヨタはマニュファクチャラーズ選手権で首位に立っている。FIAワールドカップ・フォー・ハイパーカーチームに登録された車両(今回の場合は83号車フェラーリ)はマニュファクチャラーのポイントにはカウントされないため、7号車が2位に入ったトヨタは、COTAで最高ポイントを獲得した。 トヨタは2レースを残し、ポルシェに11ポイントというわずかなリードを保っている。フェラーリはトヨタから19ポイント差で3位につけている。 なお、この選手権の4位、いわゆる『ベスト・オブ・ザ・レスト』の位置にはアルピーヌがつけている。これにBMW、キャデラックが続いている。 ■空力にダメージを負っていたキャデラック 2号車キャデラックVシリーズ.R(キャデラック・レーシング) は、オープニングラップでの接触により右フロントのカナードが外れ、レース全般にわたって軽微な空力的ダメージを受けることとなった。 アール・バンバーはレース後に、チームはトップ5のポジションをめぐる熾烈な戦いの最中に時間を無駄にしないために、ノーズ交換をしないことにしたと明らかにした。 ■プジョー、ハイブリッドトラブルで1台を失う ステランティス・モータースポーツの上級副社長、ジャン・マルク・フィノーは、94号車プジョー9X8(プジョー・トタルエナジーズ)が1周目にパンクし、早い段階で「レースから外れ」、最終的にはハイブリッドのトラブルでリタイアしたことを嘆いた。 「93号車は、まったく問題なかった」とフィノーは付け加えた。 「だが、予想していたよりも今日のコンディションはそれほど厳しくなかった。予選では、コースは予想以上に厳しかったので、デグラデーションに対処する必要があった。調整する必要があり、予想していたペースには達しなかった」 ■プライベーター選手権首位の12号車ポルシェ、苦闘 今季初めてFIAワールドカップ・フォー・ハイパーカー・チームでポイントを獲得できなかったにもかかわらず、ハーツ・チーム・JOTAの12号車のエントリーは、83号車のAFコルセ・フェラーリに対して30ポイントのリードを維持している。 JOTAドライバーのカラム・アイロットはレース後、ノルマン・ナトが運転中に電気系統のトラブルが発生した後、12号車ポルシェ963が「何度も止まった」と述べた。 アイロットは次のように語った。 「富士までのインターバルが短いため、パワーリセットを行い、問題を解決するために試行錯誤を続けた。原因は分かっていると思うが、レース中に変更するには時間が長すぎた。レースに支障をきたさないように、できるだけ賢明に行動した。最後よりも30分早くコースアウトすることもできたが、ハイパーカーのピットストップに支障をきたしただろう。だからそれを避けようとしたのだ」 ■LMGT3のアベレージ最速はファーフス マンタイ・ピュアレクシングのアレクサンダー・マリキン/ジョエル・シュトーム/クラウス・バハラーの3人はLMGT3で2位となり、マンタイのチームメイトであるヤセル・シャヒン/モーリス・シューリング/リヒャルト・リエツとの差を28ポイントに広げた。 レース後半にビスタAFコルセの55号車フェラーリ296 GT3が3番手から脱落した100秒のペナルティは、パワートレインの最大許容出力を5%超えた結果、科せられたものだった。 チームWRT31号車BMW M4 GT3のドライバー、アウグスト・ファーフスは、LMGT3で最速のスティント・アベレージをマークし、『グッドイヤー・ウイングフット・アワード』を受賞した。このブラジル人は、マンタイのシューリングとハート・オブ・レーシングのリベラスを大きく上回り、今季のウイングフット・ランキングでトップに立っている。 デニス・オルセンは、Sportscar365に対し、ステアリングラックの破損が88号車フォード・マスタングGT3のレース後半のリタイアにつながった可能性が高いと明かした。 「ここは厳しいトラックだが、少し意外だった。クルマはこれまでとても丈夫だった。でも、今年は初年度なので、僕らはチューニングと改善を続けなければならない」 ■完走したのは36台中28台のみ COTA に出場した36台のうち、完走したのはわずか28台となった。これは、今年これまでで最小だ。これほど少ない台数が完走したのは、2020年のバーレーン8時間レースが最後で、このレースではスタートした24台全車がチェッカーフラッグを受けている。 WECは、COTAでの3日間の観客動員数を6万5089人と公式に発表した。これは、2020年にこのシリーズが前回このトラックを訪れた際の2万2000人という数字を、大幅に上回るものだ。 WECの次戦第7戦は9月13~15日、日本の富士スピードウェイで行われる富士6時間レースとなる。 [オートスポーツweb 2024年09月03日]