巨大テック企業の「レイオフの嵐」が従業員とのパワーバランスを変え始めた…Z世代エリート学生たちは何を選択するのか
こんにちは。パロアルトインサイトCEOの石角友愛です。 皆さんは、グーグル従業員が2018年に実行したProject Mavenに対する署名活動を覚えていますか。 【全画像をみる】巨大テック企業の「レイオフの嵐」が従業員とのパワーバランスを変え始めた…Z世代エリート学生たちは何を選択するのか Project Mavenは、アメリカの国防総省がAI技術を利用して軍事作戦の効率と効果を向上させるためのイニシアチブです。具体的には、無人航空機(UAV)やその他の監視機器から収集された大量の動画データを分析し、敵の活動を自動的に検出・認識することを目的としていました。 2017年に発足したこのプロジェクトに当初技術を提供していたのが、グーグルです。 しかし、グーグル従業員はこのAIの軍事的利用プロジェクトに対し、3100人以上の反対署名を集めて猛反発。「AI技術を兵器開発に使わない」と宣言し、2019年を最後に契約を更新しないことを決定しました。
テック企業と政治…レイオフが「関係性」を変えた
この出来事を契機に、シリコンバレーをはじめとするテック企業では、社員が企業の政治的活動に対して意見を積極的に発信し経営方針に影響を与えることが増えました。例えば、女性の中絶する権利に関するアマゾンやスターバックスなどの企業の取り組みに対する姿勢もその一例です。 しかし、レイオフなどが広がり企業と社員のパワーバランスが変化したことを背景に、「企業と政治の関わり方」についての風向きが変わってきています。 振り返ると、変化はずいぶん早い段階で起こっていました。 例えば、シリコンバレーのテック企業であるコインベース(大手仮想通貨取引所)やShopifyは、コロナショックまっただ中の2020年後半の段階で、あえて社員の政治的活動を禁止して、ビジネスだけに集中しよう、というメッセージを打ち出し始めました。当時大きな物議を醸したこれらの出来事について、詳しくご紹介します。 コインベースのCEOであるブライアン・アームストロングは、2020年9月のブログ投稿を通じて次のような方針発表をしています。 「コインベースはミッション主導の企業であり、政治的・社会的活動がそのミッション達成の妨げになることを避けたい」「従業員が個人的な時間やリソースを使って政治的・社会的活動を行うことは自由だが、会社としてはそういった活動に関与しない」と明言すると共に、「会社のミッションに集中し、政治や社会問題に関する議論を避けることで、従業員が最大限の生産性を発揮できる」。 また、彼は方針に賛同しない従業員には退職の選択肢を提供し、実際に数週間の間に60人以上が退職したと2020年当時、報じられました。 企業が政治から距離をおくことへの従業員の反発 ── この背景には、同年5月に全米で広がったBlack Lives Matter(BLM)運動の影響もあります。多くの企業がこの運動を支持する声明を発表し、例えば、グーグルやアップルなどの大手テック企業は、BLM運動を公に支持し、資金提供やプログラムの実施を通じて社会正義の推進に積極的に関与しました。 そのような中、コインベースがBLM運動のような社会的問題への関与を避けるという対照的な立場を取ったことで、企業文化や社会的責任に対するアプローチの違いが浮き彫りとなり、賛否両論を巻き起こしたのです。 企業がどのようにしてビジネスと社会的責任のバランスを取るべきか。この議論が今なお続いているのがシリコンバレーの現状です。