アクティビスト銘柄で顕在化する「後始末リスク」、手元資金が急減し巨額還元の撤回も困難に
この株高が大株主の「退場」を後押しした。UGSアセットをはじめとするアクティビストが東洋証券の株を買い進めたのは2022~2023年。「いま売却すれば十分な利益を見込める」。そうした判断が大株主に働いたとみられる。 東洋証券は今回の自己株買いについて、「収益見通し、自己資本比率、今後の投資予定等を鑑みて60億~80億円の追加還元は合理的」と説明する。 東洋証券をはじめとする対面営業型の証券会社は、これまで株取引の仲介で得られる手数料が収益の源泉だったが、顧客の資産管理から得られる収益に軸足を置くビジネスモデルに移行している。そうした中で余剰資本の圧縮に取り組む証券会社が増えており、2025年3月期には丸三証券やアイザワ証券グループも同様の理由で特別配当を予定している。
■吐き出される成長投資資金 もっとも、大規模な株主還元を通じて株価が上がるからといって、稼ぐ力を含めた企業価値全体の向上が図られるわけではない。 東洋証券は10月に発表した新中計で、預かり資産残高1.5兆円や中国株取引の強化に取り組むことでROE8%を目標に掲げた。このハードルは相応に高く、本来ならば今回の自己株買いに投じた80億円を含め、新中計で示した成長戦略に資金を使いたいところだ。 だが、その財源を株主還元に回してしまった。これまで蓄積した利益剰余金117億円の多くを取り崩したことで、東洋証券の今後の成長にはむしろブレーキがかかりかねない。
東洋証券は2023年12月、大株主のUGSアセットなど4社を「共同協調関係」にあると認定している。とはいえ、引き続き「対立相手」であることに変わりはない。4社が保有していた30%程度の持ち分に対して、今回買い取ったのは半分程度。すべてを買い取ることはできなかった。全量買い取れるほどの余剰資本がなかったともいえ、この点も東洋証券の置かれた経営環境の厳しさを物語っている。 大規模な株主還元が株高をもたらし、それによってアクティビストの退場を促したケースは2024年にもう一例あった。アパレルメーカーのダイドーリミテッドだ。