トランプ再登場は「脱炭素」にとってどこまでリスクか?2025年に迎える瀬戸際
欧州で発生した異変、「暗い凪(なぎ)」
「暗い凪」とは、ドイツ語のDunkelflaute(ドゥンケルフラウテ)を直訳したものである。これは、太陽が出ず「暗く」なり、風が弱く「凪」となることで、風力と太陽光発電がほとんど機能しないという事態を指す。 この現象が、ドイツ、デンマーク、オランダなど北海沿岸地域を中心に、11月第1週と12月第2週の2回にわたり、3~4日間と比較的長期間にわたって発生した。ドイツを中心に見ると、今年平均して6割を超えていた再生可能エネルギーの電源割合が半分以下に落ち込んだ。この不足を補うために、天然ガス発電などの稼働を増やした。しかし、特に12月は寒さが重なり電力需要が増えたため、それでも電力が不足し、周辺国からの電力輸入を拡大してしのいだ。 この結果、欧州のスポット市場で電力価格が一時急騰した。ドイツでは、1MWhあたり936ユーロを超え、1kWh換算で160円近くとなり、2年前のエネルギー高騰以来の高値を記録した。また、欧州市場全体への影響も大きく、同様の気候状況にある周辺国だけでなく北欧などにも値上がりが波及した。
不確定要素が多い2025年と脱炭素に必須となるもの
今回の事象を、たとえばドイツの脱原発政策の失敗と結びつけたがる論調が一部で見られるが、それは誤りである。 まず、「暗い凪」は基本的に短期的な気候による現象である。風が弱く、太陽が出ないことは(夜間には常に日差しがない)珍しいことではない。今回のケースは比較的長時間続いたため、スポット市場にまで影響が及んだが、それでも数時間という短期的なものである。2021年から2022年の高騰とは、質も量も異なっている。 ドイツ気象局によれば、「暗い凪」は年間に2回程度、100~200時間発生するという。そして、電力需給にまで影響を及ぼしたのは、ドイツをはじめ欧州各国で再生可能エネルギーの割合が大きくなったからである。これは、再生可能エネルギーの拡大が進んでいる証拠でもある。 多くの再生可能エネルギーやエネルギーの研究機関は、10年以上前から「暗い凪」を予測し、その対策を研究してきた。蓄電池の普及や水素貯蔵、DR(デマンドレスポンス)の積極的な利用、系統の強化など、いわゆる「柔軟性」を拡大することで、再生可能エネルギー100%も可能であるというのが主流の考え方である。しかし、過渡期では火力発電所の緊急稼働が必要であり、今回は休止やメンテナンスのために間に合わなかったという事情もあった。 再生可能エネルギーの本格的な主力化が無理だということではなく、柔軟性などの対応がさらに強く求められる状況になったと考えるのが正しい。 食い止められない温度上昇にどうブレーキをかけるか、再生可能エネルギーをさらに増やすための柔軟性をどう拡大できるか、重要な鍵を握る米国にどのような脱炭素の政策転換があるのか、また、最悪の温暖化ガス排出である戦争をどう収めることができるのかも含め、2025年はまさに地球の瀬戸際の年である。
執筆:日本再生可能エネルギー総合研究所 代表 北村 和也