トランプ再登場は「脱炭素」にとってどこまでリスクか?2025年に迎える瀬戸際
トランプ再登場による脱炭素実現の2つのリスク
平然と温暖化自体を否定する者が米国大統領に復帰することは、脱炭素にとっての脅威だろう。それは、2つの点で具体的なリスクとなる。 まず、米国が世界第2位の温室効果ガスの排出大国であるという点である。世界最大の排出国は中国で、世界全体の3割を占めているが、米国はそれに次ぐおよそ15%の排出量を占めており、日本の3%をはるかに超えている。その国のトップがパリ協定からの脱退や前述したNOAAの解体を主張しているのであれば、温暖化防止に対するネガティブな影響は避けられないだろう。 もう1つは、近年の米国が脱炭素の先進国であるという点である。米国では再生可能エネルギーの導入が飛躍的に拡大し、2035年には電力のカーボンニュートラル化を目指している。つまり、単なる政策の後退ではなく、脱炭素にとってプラスからマイナスへの転換になる可能性がある。 バイデン政権が推進している米国のエネルギー転換の最大の切り札は、IRA(インフレ抑制法、Inflation Reduction Act)である。「インフレを抑える」とあるが、実際には投資に対する減税政策で、その中心は再生可能エネルギーなどの脱炭素事業である。この支援は、10年間で総額50兆円という巨額に達する。多くが補助金ではなく、減税措置であるため、太陽光発電関連や蓄電池、EVなど広範囲の事業への投資が爆発的に伸びている。 図2は、IRAが成立した2022年の夏以降、米国国内の脱炭素関連投資がどのように増加しているかを示している。2023年は2022年実績の2.4倍となり、2024年は年の前半だけで前年に匹敵する投資額を記録している。この施策に対して、トランプ次期大統領は選挙戦で廃止を主張するなど過激な言動を行ってきた。 今、世界は次期大統領が実際にIRAをどうするかに注目している。
トランプ次期大統領の政策とIRAの行方
米国内外のマスコミや有識者の論評を総合すると、IRAの廃止といった過激な施策は取れないという意見が多い。その理由は、トランプ支持の州や企業でもこのIRAの恩恵を受けており、共和党内でも施策の続行を求める議員が存在するという背景がある。次期大統領が支援する石油業界でさえ、選挙前からIRAの継続を求めていた。脱炭素はすでに米国内でもしっかりとしたビジネスとして定着しているのである。 とはいえ、彼の気まぐれで予測不能な性格から、支援額の上限設定や期間の短縮、一部の廃止などは十分に考えられる。その証拠に、大統領就任前にIRAの駆け込み申請が相次いでいる。2024年は米国で過去最高の32GWを超える太陽光発電設備が導入される勢いであるが、翌年2025年には一転して16%の減少が予測されている。