浸水隠ぺいだけじゃない? JR九州「クイーンビートル」再開断念の裏側とは? 30年の航路を支えた苦闘を振り返る
釜山航路の挑戦と転機
期待に反して、安定した乗客の確保はできず、航路の維持は非常に困難だった。 前述のように、九州各地と韓国を結ぶ航路は、数年で次々に休止に追い込まれた。JR九州の福岡~釜山間の航路も、1便あたりの乗客が60人に満たないことが多く、皮肉にもこの時期の経営を支えていたのは、 「福岡~ハウステンボス間の国内航路」 だった。しかし、この国内航路も鉄道運賃の倍近い料金設定が影響し、収益は目標に届かなかった。 それでも、JR九州は思い切った戦略を打ち出す。収益が少ない国内航路を切り捨て、苦戦していた福岡~釜山航路に経営資源を集中する決断を下した。『西日本新聞』2015年6月22日付のインタビューで、当時の担当者たちは、この決断の背景に 「釜山航路には必ず伸びしろがある」 という強い確信があったことを明かしている。 この決断は正解だった。その後も苦戦は続いたが、2002(平成14)年の日韓ワールドカップを契機に乗客数が急増。こうして、福岡~釜山航路は新時代の日韓関係を象徴する存在に成長していった。
政情に左右される高速船事業
しかし、航路の経営は不安定だった。2024年11月にJR九州が発表した安全対策に関する第三者委員会の調査報告書では、その経営に関する問題点も指摘されている。その要素を以下に箇条書きでまとめた。 ・博多~釜山間の運航事業は、韓国の政情に影響されやすく、業績が安定しにくい。 ・JR九州高速船の事業は、日本と韓国を結ぶ架け橋としての社会的価値があり、経済的収益とは異なる意義を持つ。 ・新型コロナウイルス感染症の流行前、売上高は約20億円で黒字経営だった。 ・2019年度以降、コロナの影響で売上高が大幅に減少し、赤字が続いた。 ・2023年度には売上高が回復し黒字転換したが、事業計画の数字は未達。 ・コロナ以前、JR九州高速船の売上はグループ全体の1%未満だった。 この高速船事業は、日韓交流という社会的役割を果たしながらも、民間企業にとって収益が政情に左右される不安定な事業であった。 実際、この20年間の経営実績は、日韓関係の影響を大きく受けてきた。2002年の日韓ワールドカップでは利用者が大幅に増加し、一時は安定した運営が見込まれた。しかし、2013(平成25)年には ・円安 ・日韓関係の悪化 で乗客が大きく減少した。さらに2019年、再び日韓関係が悪化すると、その影響は深刻であった。『西日本新聞』2019年8月29日付によると、JR九州の「レールパス」(インバウンド向けの乗り放題パス)の韓国人利用者割合は、政府の輸出規制強化前の2018年は20%だったが、2019年8月には 「6~7%」 に急落した。このように、高速船事業は両国間の関係が直接的に利用者数に影響を与える不安定さから抜け出せなかったのである。