〈発達障害グレーゾーンで悩む若者たち〉簡単な質問に”マニアックな長文メール返答”で顧客から大クレームを受けた20代…こだわり、先延ばし…
『発達障害グレーゾーンの部下たち』#1
発達障害には、コミュニケーションやイマジネーション能力の低さ、空気が読めない、整理整頓が苦手といった「生きづらさ」につながる特性がある。しかし、発達障害と確定にはいたらない“発達障害グレーゾーン”の場合では、そういった特性の凹凸が少ない傾向がある。そのため、悩みやトラブルの原因に気づきにくく、適したケアや対策ができていないことも多いという。今回はそんなグレーゾーンで悩む20代、30代のケースを紹介する。 【画像】発達障害を疑ってカウンセリングにくる人は、比較的若い世代が多い 『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SB新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
社会に出てから発覚するグレーゾーン
近年、社会に出てから初めて発達障害を疑い、精神科や心療内科を受診する人が増えています。 企業でカウンセリングをしていても、「自分は発達障害かもしれない」という悩みを抱えて相談にくる人が少なくありません。 メディアなどで頻繁に発達障害が取り上げられることも影響しているでしょうが、社会構造が複雑になり、適応できない場面が増えてきたことも一因ではないかと思われます。 筆者のところに発達障害を疑ってカウンセリングにくる人は、比較的若い世代が多いように感じます。 学生時代は環境に適応できていたけれど、社会に出てから適応が難しくなり、ネットなどで調べると発達障害の特性が自分に当てはまるので心配になったという人が多いです。 発達障害は脳機能の発達に関する障害で先天的なものとされていることから、気づいていなかっただけで、社会人になって初めて発達障害を発症することはありません。 グレーゾーンはなおさら、社会に出てから発覚することが多いといえます。
「学生時代は上手くいっていたのに……」と悩むBさん
Bさん(男性20代)は、電子工学系の一流大学院を出て、主にシステム開発の仕事を担当しています。 システム開発は、頭を使って黙々と作業することが得意なBさんに合っていましたが、慣れていくにつれて担当するパートが多くなり、会議でのプレゼンや発言の機会も増えていきました。 しかしそれはBさんにとって、歓迎すべき事態とはいえませんでした。 なぜなら、Bさんは周囲の空気を読むことが苦手で、社の内外を問わず知らないうちに相手を苛立たせてしまうからです。 会議で、自分が開発した案件のこだわりのある箇所についてだけ長々と説明したことがありました。 当然、周囲は白けた反応でしたが、会議が終わってからも、忙しそうにしているメンバーに何度も同じ箇所を説明に行ったりしました。 顧客へのアフターフォローでも、簡単な質問に対しマニアックな長文メールで回答して、クレームがきたことがありました。 次第に周囲から厳しく指摘されることが増え、Bさんは、コミュニケーションが上手くいかないと悩みだしました。 Bさんの“こだわり”や“空気が読めない”というのは、社会人になって始まったことではありません。 学生の頃も、クラスで“浮いている”と感じたことはあるそうですが、成績優秀だったので特に問題にはなりませんでした。 しかも、大学院では彼の“こだわり”によって緻密な論文を完成させることができ、学会で賞を獲ることもできました。担当教授から褒められることも多く、研究室では「できる人」というキャラで通っていたということです。 しかし、最近では、同僚から「そこは全然重要じゃない」などと相手にされなかったり、一生懸命回答した取引先からクレームがきたりして、自信を失うことばかりだったそうです。 そのため会社に行くのがつらいと思うようになってきたということです。 Bさんは自分の特性をネットで調べ、発達障害の1つである〝自閉スペクトラム症〟に行きつきました。 そして、「自分は自閉スペクトラム症ではないか」と筆者に相談にきたのですが、その後受診した精神科では「その傾向がある」と言われました。 自閉スペクトラム症の特徴としては、言語以外のメッセージであるメタメッセージ(表情や声色、ジェスチャーなど)が受け取れない、固執傾向(こだわりが強い)、相手の立場に立つといった想像力が働きにくいなどがあります。 言葉によるコミュニケーションは、言葉自体によって20%、メタメッセージによって80%伝えられるといわれており、メタメッセージの読み取りが上手くいかないと“空気が読めない”ということになってしまいます。 近年、Bさんのように社会に出て初めて、この障害(グレーゾーンを含む)が自分にあることが分かったという人が増えているのです。