〈発達障害グレーゾーンで悩む若者たち〉簡単な質問に”マニアックな長文メール返答”で顧客から大クレームを受けた20代…こだわり、先延ばし…
異動により症状が現れたCさん
発達障害グレーゾーンの人たちは、環境への適応が上手くいく場合とそうでない場合があります。今度は異動により環境への適応が難しくなったケースをお伝えしたいと思います。 Cさん(女性30代)は、商品企画部から秘書課に異動になりました。 アイディアの豊富な彼女は、新企画を考えたりすることが得意で、商品企画部では大ヒット商品を生み出したこともありました。その反面、予算管理や仕事の段取りは得意ではありません。 斬新なアイディアを出すことが多々ありましたが、その中には明らかに予算オーバーになるような企画もありました。 企画書には、予算や段取りなども入れていくのですが、チームのメンバーに恵まれていたCさんは、周囲にフォローしてもらいながら企画を形にしてきた経緯がありました。 しばらくは商品企画部にいたかったCさんですが、秘書課へ異動となり、出世コースとされている役員秘書の仕事に就くことになりました。 Cさんが担当することになった役員は秘書に全幅の信頼を寄せていて、飲食店の予約まで任せるタイプの人でした。 最初は張り切って役員の指示に対応していたCさんでしたが、「美味しい和食のお店を探しておいて」などと頼まれると、ついついお店探しに気を取られてしまい、名刺やスケジュールの管理、諸々の精算などの日々の業務を「あとでまとめてやればいいか」と先延ばしにすることが多くなりました。 その結果、役員から秘書が管理している(はずの)名刺の連絡先を聞かれてもすぐに分からない、月末に経理から役員の精算書提出を求められても出せないといった類いのことが増えてきました。 このような状態になったのは、CさんにADHDの傾向があったからです。 ADHDに見られる特性の中には、子どもから大人になるにつれて目立たなくなるものもありますが、「不注意」や「衝動性」は大人になっても残りやすいといわれています。 興味や関心の度合いによってやる気の度合いが変わってくることも、ADHDの特性の1つです。 「不注意」における特性の1つに“先延ばし”があります。Cさんも、ルーティンワークを「やらなければ」と思っていながら、他に興味を引くことがあるとそれを優先し、本来業務を先延ばしにしていました。 「忙しいからあとで」「まとめてやればいいか」と“先延ばし”にしているうちに、往々にして期限を守れなくなり、仕事に適応できない状態になっていたのです。 「衝動性」は、衝動のコントロールが苦手なゆえに、自分の欲求のまま無計画に行動することです。 “無計画な買い物”や“衝動買い”がその例で、ADHDの人は買い物に行くと気持ちが大きくなる傾向があるといわれています。 商品企画部にいた頃のCさんが、予算度外視の商品企画をしていたのは、「衝動性」によるものだった可能性があります。Cさんは、予算に関してはチームメイトがフォローしてくれていたので、活躍できていたといえるでしょう。 Cさんは役員秘書になって3か月経っても、ルーティンワークを先延ばしにするクセが抜けませんでした。役員に注意されることが増え、他部署からクレームを受けるようにもなり、すっかり自信をなくして、うつ状態になっていきました。 職場の産業医から精神科の受診を促され、「ADHDの傾向がある」ことが分かり、仕事への適応が難しいとして適応障害の診断を受けて休職に入ることになりました。 発達障害のグレーゾーンの人は環境への適応が難しくなり、適応障害などの二次障害につながることがあるのです。 文/舟木彩乃 写真/Shutterstock