下落続く米国株 そもそもどれくらい割高なのか?
下落を繰り返すなど不安定な値動きを見せる米国株。米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げの影響などがいわれますが、そもそも割高だったと第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストは指摘します。米国株はどれくらい割高なのか。藤代氏に寄稿してもらいました。 【グラフ】米国株急落、市場混乱時に投資家が避けたい思考パターン
1950年以降の平均を上回る「シラーPER」
10月入り後、米長期金利上昇を発端に米国株式や低格付け社債といったリスク性資産が打撃を被り、その余波で本邦金融市場も荒れています。FRBの金融引き締め(利上げ)によって、割高な資産価格が修正を迫られることはある意味自然なので、米国株下落そのものはさほど違和感がないのですが、今回は下落幅が非常に大きかったこともあって投資家の恐怖心が増幅されていますから、金融市場が落ち着くには相応の時間がかかるかもしれません。ここであらためて米国株がどれほど割高だったのか、再確認してみます。
米国株の長期的なバリュエーション(割安・割高の尺度)を計測できる「シラーPER」という尺度があります。これは景気循環の影響を除去するために過去10年間のEPS(1株あたり利益)の平均値をインフレ率で調整した利益額を分母にとって算出するPER(株価収益率、分子は株価)です。一般的なPERが今期や(再)来期のEPSを分母に取るのに対して、シラーPERは長期平均の利益を分母に置くので、短期的な業績変動の影響を受けにくいという特徴があります。したがって、シラーPERは数か月スパンの株価分析には使いにくい指標ですが、5年や10年といった長期スパンで株価を分析する際には優れた指標です。 そのシラーPERは直近値が31.5倍。これは1999~2000年頃のドットコム・バブルのピークにつけた44倍程度よりは低いものの、1950年以降の長期平均である19.4倍を遥かに上回っており、長期的にはかなり割高なレベルにあります。馴染みの深い(?)偏差値に換算すると65.8という値になります。これは6%程度しか出現しないレベルですから、こうした状態が長続きするとは考えにくいです(※直近15年のデータで計算すると偏差値は70近傍、2%しか出現しないレベル)。 それゆえ、いくら米国経済の成長軌道が力強かったとしても、今回のような下落に直面してしまうのは不可避なことかもしれません。幸い米国の企業業績は堅調ですから、時間の経過とともに(PERの分母の)利益が拡大することで割高感が解消に向かい、株価のさらなる下落が回避される可能性はありますが、現在の米国株が長期的にみて割高な状態にあることは認識しておく必要があるでしょう。
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