「東大に行ってどうするの?」「受験の情報が手に入らない」地方から東大を目指す親子が目の当たりにした、首都圏出身者との「格差の現実」
ある日、小学生の娘が突然「東大を受験したい」と言ってきたら……? 本作『たちつて東大』は、漫画家・斎藤かよこさんが、娘の中学受験から大学受験までをサポートしてきた、自身の経験をもとにしたエッセイ漫画だ。 【マンガ】ヤバすぎる格差に絶句...『たちつて東大』を読む 昨今、地方と首都圏の教育・受験格差はますます拡大している。 東京大学が発行した『大学案内2024』によれば、令和5年度に一般選抜で入学した東大生2997人のうち、東京出身者は1008人、関東出身者は1725人に及び、全体の約57%を占める。2009年度以前は、関東出身者は50%未満だったが、2010年度以降からは過半数を占める状況が続いている。 新潟県在住だった斎藤さん親子は、東大受験のため首都圏に住まいを移し、私立中学の受験に臨んだ。 地方出身者が東大を目指す―――。その苦労の実情を語ってもらった。
「東大に行ってどうするの?」
大学進学率が男女ともに8割近くにのぼる東京では、「東大を目指す」ことで肩身の狭い思いをすることなどあまりないだろう。だが、地域によっては事情が異なってくる。斎藤さんは、周囲から冷たい言葉を投げかけられることもあったと話す。 「高校時代の同級生と話をしたときは、かなり温度差を感じましたね。正直なところ、『東大受験を考えられるような経済的余裕があるなんていいね。何より地元に残らなくていいなんて羨ましい』といった、妬みのような気持ちも感じました」 私の生まれ育った地域では、今も地元に就職して働くべき、という考えが根強くあるんです。さらに『女の子なんだし、たとえ良い大学を出ても、結局は結婚して会社を辞めるんだから何になるの? そこまでしなくてもいいじゃん』という声も、少なからずありました。 同級生たちも子供の頃から親にそういうふうに言われて、我慢してきた人も多いんだろうと感じましたね」(斎藤さん)
地方の受験生は常に不利
批判的に受け止める人もいる一方で、応援してくれる人も多くいた。 「娘が東大を目指すために首都圏の私立中学を受験したいと伝えると、学校や塾の先生たちはすごく張り切ってサポートしてくださいました。志望校の対策本をわざわざ買ってきて、うちの娘のために個人指導してくださったりと本当に熱心な先生ばかり。その点については、とても人に恵まれました」 だが、斎藤さんがとにかく困ったのが、新潟県の塾や学校では受験情報がほとんど手に入らないことだった。 「地方だと、首都圏の中高一貫校を受験するノウハウが本当にないんです。学校ごとの特色や傾向が分からないから、こちらも対策を練れない。先生たちも東京の学校の細かいデータを持っているわけではないので、大変でした」 ただでさえ受験の情報も手に入りづらい上に、首都圏の一貫校や私立では中学校で習う内容を出題するなど、学習すべき範囲も異なる。さらに、早い子であれば幼稚園から、遅い子でも小学4年生から受験対策を始めている。 大学受験での地方と都市部の教育格差はしばしば指摘されてきたことではあるが、たとえそれを補うために首都圏の名門中高一貫校を受けようとしても、地方受験生は都市部の恵まれた子供たちと競い合わなければならない。どこまで行っても不利がつきまとうのだ。 ・・・・・・ さらに、後編『「塾代だけで年300万」高すぎる教育費に絶句…地方から東大を目指す親子が明かす、「首都圏名門一貫校」の「驚愕の実態」』では、斎藤さん親子が直面した、教育費問題についてのエピソードを紹介する。
斎藤 かよこ (マンガ家)/週刊現代(講談社)