殺害から25年、妻がくれた「奇跡の出会い」 新たな家族と願う解決
妻の高羽奈美子さん(当時32)を殺害された悟さん(68)に今月、家族が増えた。一人息子の航平さん(27)の妻咲月(さつき)さん(27)は奈美子さんの親友の娘。2人は偶然同じ高校に入学し、そして結婚した。「奇跡的な出会いで、生きる力をもらったようだ」。悟さんが目を細めた。 【写真】生前の高羽奈美子さん。家族と笑顔で写真に写っていた 1999年11月13日午後、名古屋市内の職場にいた悟さんは、近所から「奈美子さんが倒れたようだ」と連絡を受けた。借りていた自宅アパートに帰宅すると、奈美子さんは室内の玄関そばの廊下で血を流し倒れていた。その後、警察が現場を調べた。奈美子さんの遺体が運ばれていく頃には、あたりは暗くなっていた。 ぼうぜんとして親族が運転する車に乗り込むとラジオが午後10時を告げた。「名古屋市で主婦が殺害される事件があり…」。最初に読まれたニュースが、奈美子さんのことだった。当時航平さんは2歳。「これからどうしよう」。目の前が真っ暗になった。 ■亡き妻思い、借り続けたアパート 事件後、悟さんは実家に身を寄せ、自宅の片付けに往復した。奈美子さんが好きだった松田聖子さんのCD、本棚に並んだレシピ本が目に入る度に片付けの手が止まった。 「私と航平のことを思って、おいしいものを食べさせてくれていたな」 亡くなったはずの奈美子さんの体温をすぐそばで感じるようで、ただ時間だけが過ぎていった。 そんな時、義母に「家具をもう少しだけ持っていてほしい」と言われた。 部屋を片付けなくていいんだ――。一気に気持ちが楽になった。「証拠を保存して、犯人を立ち会わせて現場検証してもらう」と自らを奮い立たせた。アパートを借り続け、支払った家賃はこれまでで計約2200万円になった。 ■「今年こそ解決を」変わらない思い 事件後に採用された警察官が多くなった。管轄の警察署からの電話を折り返した際に「どちらの高羽さんでしょうか」と言われ、寂しく思ったこともある。 「23年、24年、25年と時間が経過しても、今年こそは事件を解決してほしいという思いは変わらない。なんとか捕まらんかなあ」。当時のままの部屋で悟さんが漏らした。 2歳だった息子は独立し、かけがえのない家族も増えた。どれもあの夜には、想像もできなかったことだ。 「奈美子は『私のおかげでしょ』と言いそうだけど」 悟さんは、声を上げて笑った。(奈良美里) ◇ 名古屋市西区の主婦殺害事件 名古屋市西区稲生町で1999年11月13日午後2時半ごろ、高羽奈美子さんが自宅アパートで首を刃物で刺され、亡くなっているのが見つかった。玄関に残された血液のDNA型鑑定などから、犯人は血液型がB型の女で、当時40~50代とみられる。情報は西署(052・531・0110)へ。
朝日新聞社