日本代表に必要な“鉄板化の脱却” 潜む不安要素…指揮官に注文したいボランチ起用法【コラム】
これまでやっていない遠藤航と田中碧のコンビで戦う時間を作ってほしい
確かに遠藤と守田のボランチはアジアカップの頃のような連携・意思疎通のズレがなくなり、非常にいいコンビネーションを見せている。遠藤は今季リバプールで出場機会が激減。試合勘の不足が不安視されていたが、代表戦での一挙手一投足を見る限りだと、パフォーマンスが落ちるような状況にはなっていない。 「個人的には今まで何百試合と出てきている中で、試合勘に関して、そこまで大きなギャップが生まれることはない」と本人も前日会見で自信をのぞかせていたが、小さなミス以外は見る者に安心感を与えてくれた。 守田の方は、攻守両面で圧倒的な存在感を示している。守田とMF鎌田大地(クリスタルパレス)がポジションを前後に入れ替え、マークをはがしながら、守田がゴール前へ出ていって得点に関与する仕事というのが、最終予選に入ってから大いに目立っている。9月のバーレーン戦(リファー)では守田がゴールを奪い、10月のサウジアラビア戦(ジッダ)、そしてインドネシア戦では鎌田の得点をアシスト。最終予選の全19ゴール中5点に関与するという目覚ましい働きを見せているのだ。 そうなると、森保監督が2人を変えづらいのも理解できるが、鉄板化すればするほど、いざという時のダメージが大きくなる。それは遠藤保仁(現G大阪コーチ)と長谷部誠(日本代表コーチ)が鉄板ボランチを形成していたアルベルト・ザッケローニ監督時代の日本代表がまさにそうだった。 2014年ブラジルW杯直前に長谷部が膝の大怪我を負い、本番出場が危ぶまれる状況になって、ザッケローニ監督は慌てて山口蛍(神戸)や青山敏弘(広島)を戦力化しようと躍起になったが、思惑通りに事は運ばなかった。最終予選を戦いながら、ボランチの幅を広げていくというのは難題には違いないが、それをやっていかなければ、選手層は厚くなっていかない。 今回もオーストラリア戦では中盤の連動性が低下し、攻守両面でノッキングを起こしていた。その全ての原因が田中碧にあるわけではないし、田中碧も時間さえ与えれば、迅速に3バックの2ボランチのプレーに適応していくに違いない。 森保監督は“切符を取ってからいろんな選手を使う”と考えているのかもしれないが、緊張感のない中で組み合わせを入れ替えても、2026年W杯本番のギリギリの状況で使えるようにはなりにくい。超過密日程の次戦・中国戦こそボランチの入れ替えにトライしてほしいもの。少なくとも試合途中からはこれまでやっていない遠藤と田中碧のコンビで戦う時間を作ってほしい。それが先につながるはずだ。 田中碧より序列的に低い藤田譲瑠チマ(シントトロイデン)ら若手を戦力化していく作業はもっとハードルが上がりそうだ。第4のボランチ枠には、彼以外にも、最終予選では招集されていない川村拓夢(ザルツブルク)や佐野海舟(マインツ)のような人材がいる。彼らをどう組み込んでいくかも今後の重要なテーマになってくる。 いずれにしても、遠藤と守田の鉄板ボランチのまま、1年半後の大舞台まで行くことがないように、今後のマネジメントを工夫していくべきではないか。難易度の高いテーマなのは承知で、森保監督にあえて注文しておきたい。 [著者プロフィール] 元川悦子(もとかわ・えつこ)/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。
元川悦子 / Etsuko Motokawa