女子高生が出張授業で「先生」に? 灘、駒場東邦…進学校が実践する「性とジェンダー」教育の中身
■品川女子の有志団体が男子校の獨協などで出張授業 東京都の「品川女子学院」中等部・高等部(以下、品女)には「CLAIR.(クレア)」という有志団体がある。女性の生理についてのタブー視をなくすことで、最終的には性別を超えてお互いが尊重・理解できる社会を目指す団体だ。 活動の一環として、男子校などへの出張授業を行っている。過去には「開成」「芝」「本郷」「攻玉社」(すべて東京都)での授業実績があり、今回、獨協での授業が実現した。 最初の約30分間は品女生による講義。月経のメカニズムやそれにともなう心身不調への対処法を説明するだけでなく、なぜ女性の生理がこれまでタブー視されてきたのかについて、歴史的・文化的な考察がなされていることがユニークだ。 さらに、生理で体調不良を訴えている女性に対してどう振る舞うべきかをケーススタディーするため、ロールプレイが行われた。講義で学んだことをヒントに、獨協生が即興の対応を求められる。 終了後、獨協生たちが何かをつかめたような表情をしていたのが非常に印象的だった。女性の生理について、理屈だけでなく、実践のレベルで学べた手応えがあったのだろう。その自信がもてれば、さらに知識を得て、相手を理解しようという気持ちも強まるはずだ。
■弱点補強をアピールすべき 拙著『男子校の性教育2.0』のために、全国の男子校を対象に行った独自アンケートの結果によれば、男子校であってもなんらかの形で他校の女子との交流をもっているケースは、いまではまったく珍しくないようだ。 まず部活において女子校や共学校との合同練習のような機会は頻繁にある。また、生徒会や委員会活動でも昨今は学校の枠組みを超えた交流が盛んなようで、地域によっては、男子校・女子校・共学校を問わず、男女がともに活動するのが当たり前になっている。 四六時中教室の中で同じ空気を吸うわけではないが、いまの時代、男子校であっても、同世代の女性とかかわりをもつ機会は、本人さえ手を伸ばせば届くところにあるのだ。 男女共同での活動の目的が恋愛テクニックを磨くことでないのはいうまでもない。男女共同参画社会において肝心なのは、恋愛や結婚の対象ではないひとたちともそれぞれの違いを認めつつ対等な関係性を取り結べるかどうかである。 その目的において、部活、生徒会、ボランティア、あるいはプロジェクト型学習などの機会に、普段は生活をともにしていない男女が“友達”とは違う適度な距離感を保ちながら協働して企画を推進する経験を積むことには、直接的な効果を期待できる。 部活や生徒会活動は生徒主導で、プロジェクト型学習のような機会づくりについては学校主導で、ぜひ積極的に取り組んでほしい。いくつもの女子校と男子校が相互に協働学習するネットワークができれば、男子校のアキレス腱もだいぶ補強されるはずだ。 昨今、首都圏の私立中高一貫校においては、大学との提携による高大接続や、企業との提携によるキャリア教育や、海外の学校との提携によるグローバル教育などがアピールされがちだが、もっと足元で、「女子校と男子校の提携」が盛んになり、学校選びの基準の一つとして注目されてもいいのではないだろうか。 〇おおたとしまさ/教育ジャーナリスト。リクルートから独立後、育児誌・教育誌の編集に携わる。小学校での指導経験も。教育現場を丹念に取材し、執筆活動を行う。『勇者たちの中学受験』(大和書房)など著書は80冊以上。近著は『男子校の性教育2.0』(中公新書ラクレ)。
おおたとしまさ