【社説】水道のPFAS 周回遅れの対応を見直せ
暮らしに欠かせない水道水は市民の健康に直結する。被害の恐れがある以上、国は先手を打ち対策を講じる責任がある。 発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)について、政府は現行の暫定目標値を水道法上の水質基準に格上げする方針を決めた。 PFASは全国各地の水道や河川、地下水などから検出されている。暫定目標値はそれ以下に抑えることを目指す基準に過ぎず、法的強制力はない。超えても改善は努力義務にとどまる。 格上げ後は、自治体などの水道事業者に定期検査と基準値を超えた場合の改善を義務付ける。2026年4月の施行を想定している。 PFASは水や油をはじき、焦げ付きにくいフライパンや防水スプレーのほか、半導体の製造過程でも使われてきた。自然界では分解されにくく蓄積されやすい。 00年代初めに海外で有害性が指摘されるようになった。代表的なPFOSとPFOAは国際条約で製造や使用が禁止された。原料に使っていた工場、泡消火剤を使用していた米軍や自衛隊の基地などで地下水に染み込み、検出されているようだ。 健康への影響について科学的知見は十分ではない。しかし健康被害を防ぐため、危険性を重視して未然に対応する「予防原則」の考え方は何より重要だ。 PFAS対策で日本は周回遅れと言わざるを得ない。暫定目標値はPFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)だ。米国の飲料水は、この2種の基準が各4ナノグラムと厳しい。欧州でも厳格化の動きがある。 環境省は暫定目標値をそのまま水質基準に採用する構えだが、妥当なのか十分な説明はない。規制の遅れが被害拡大を招いた過去の公害の反省を踏まえ、対応をためらってはならない。科学的知見の積み上げも急務だ。 国は初めて大規模調査を行い、昨年公表した。給水人口の大半を占める上水道と簡易水道で、検査した水道事業の2割にPFASが検出されたものの、暫定目標値は超えていなかった。以前超えた地域は水源変更などで改善したとみられる。 一方、社宅や病院など特定の居住者に供給する専用水道は、暫定目標値を超えた施設があった。福岡県の航空自衛隊芦屋基地では30倍となった。各施設とも上水道に切り替えたり応急的に浄水器を備えたりしている。 全国的に発生源が不明な所が多い。発生源の特定手法や改善策について国に指針を求める声がある。速やかに実施したい。検査や改善に多額な費用がかかり、水道料金が上がる可能性もある。国の財政支援も検討すべきだろう。 健康被害への不安も募る。住民の要望があれば血液検査を実施するなど柔軟な対応が求められる。
西日本新聞