慶應ボーイの学生監督が率いる慶應志木 来る夏は「現役の時よりも緊張するかもしれません」
その後も選手たちを厳しく鍛えながらオフシーズンを過ごしてきたが、3月後半に転機がやってきた。 「練習試合の時に、柴田先生に『お前は上から厳しい指導をするんじゃなくて、いい先輩として選手たちを引っ張って、選手たちが自然とついてくるような指導をしろ』とアドバイスをいただきました。これが僕にとっては大きくて。それまでは監督らしく振る舞っていたところを、先輩感覚で一緒に選手たちと戦うつもりで声出しをするなど、自分が主将になったくらいの気持ちでやるようにしました。 そうしたら選手たちものびのびプレーするので、チームの雰囲気もガラリと良くなり、いい形で春季大会を迎えることができました」(石塚監督)
応援されるチームでベスト8を目指す
そして迎えた春季大会。初戦の岩槻商に25得点の猛攻で勝利すると、代表決定戦で大宮東と激突。プロ注目・冨士が先発したが、初回に先取点を奪うと、2回には追加点。2対0と主導権を握ったまま終盤に持ち込み、そのまま逃げ切り。 「先制したことで、自分たちの思っている展開になって勢いのままに勝ち切れた」と永島主将は総括するが、石塚監督は、試合前から気持ちには余裕を作っていたという。 「雰囲気で押しきれたのは良かったですけど、やっぱり注目されている冨士君がいるので、こちらは割り切っていました。『負けるのは当たり前だから』とか『周りは負けると思っている』くらいの感覚でした。 けど、『諦めないで戦っていけば、何かいいことがあるかもしれない』という言葉で、選手たちを奮起させました。だから、もう気合ですよね」
代表決定戦で大宮東を下すと、県大会でも細田学園を撃破。一役、埼玉を沸かせる注目校に名乗り出たが、川越東戦では安定していたバッテリー中心の守備が乱れ、押し切れられてしまった。 「川越東戦は負けたものの、雰囲気は良かったと思います。点差が開いても、『大丈夫、大丈夫。自分たちならやれる』って声をかけましたが、力が及びませんでした。だから、夏の大会に向けては短い時間ですが、少しでも自力を上げていかないといけないと思っています」(永島主将) また、石塚監督自身、初めて監督として迎える夏も、「現役の時よりも緊張するかもしれません」と苦笑いを浮かべるが、唯一譲れない思いがあるという。 「野球だけをやっていて、他を疎かにするのは違うと思うので、目的は見失わないようにしようと思っています。 うちの場合は、応援されるチームを目的にしていて。というのも、気配りなど周りが見えていない選手が多いと感じています。そのうえ野球でも結果が残せなかったら、将来何ができるんだろうって思ったんです。だから誇れるものを残してあげたいと思ったときに、周りが応援したくなる言動ができる選手、雰囲気があるチームになる。そうやって、人として成長できたと思えるようにしたいので、応援されるチームを目的に頑張りたいと思っています」
高校野球を引退してからわずか2年足らずで紆余曲折があった石塚監督。その頑張ってきた背中を見て永島主将は、特別な思いを抱いている。 「自分のなかでは、石塚監督がやってくれているからこそ頑張れている部分があって。だから、夏は石塚監督のために勝ちたいと思っています」 慶應志木野球部の歴史を変えるべく、ベスト8の壁に挑む2024年の夏。結果はどうあっても、選手はもちろん、学生監督・石塚大起監督にとっても忘れられない特別な夏になるだろう。慶應志木の活躍を期待したい。