きくち体操創始者・菊池和子 90歳:体はこんなに希望に満ちてできている
生命の輪
「時々こんなこともするんですよ」と菊池が見せてくれた、手つなぎ・足つなぎの連鎖体操は、今まで見たことのない、実に不思議なものだった。 まずは2人で、互いに相手を感じるようして足の指を組む。この人こういう足の人なんだと感じ、お互いに力を分かち合っている感覚になる。次に手の指を組む。自然に笑顔になる。そうして、互いの腕、首回り、腹筋がつながっていく。 そして、今度は4人でやってみましょうということになり、4人の手足の指が相互に握り合わされ、きれいな円を描き始めた。私は夢中になってシャッターを切った。 目の前の4人、それぞれの「私」が溶け出し、一つの丸い円となって回り始め、全体で一つの生命が形を成していくのを目の当たりにして、不意に突き上げるような感動に襲われた。自分の体までもが、その輪に共振している。ああ、こうして世界中の人々が手をそして足を握り合えばいいのにと、心から思う。 自分であって自分でない、どこまでが自分でどこからが他人かが分からなくなる、そんな至福の一瞬。「みんなつながっている」という気づき。私たちの心の奥深くに眠っていた、幼心(おさなごころ)の躍動。 きくち体操が半世紀かけて育んできたもの、それはきっと、いま最も失われてしまったこの感覚なのかもしれない。体はこんなに希望に満ちてできている。 写真と文=大西成明
【Profile】
大西 成明 写真家。1952年奈良県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。「生命」や「身体」をテーマにした写真を撮り続けている。写真集『象の耳』で日本写真協会新人賞(1992年)、『地球生物会議』ポスターでニューヨークADC賞ゴールドメダル(1997年)、雑誌連載『病院の時代:バラッド・オブ・ホスピタル』で講談社出版文化賞(2000年)、写真集『ロマンティック・リハビリテーション』で林忠彦賞、早稲田ジャーナリズム大賞(2008年)を受賞。元東京造形大学デザイン学科教授。