認知症予防の高額な「自由診療」。その裏に潜むリスクとは?安全で本当に効果がある治療は、安くてシンプルで地味なもの【山田悠史医師】
特別感を演出し、高い金額で提供
認知症予防を目的とした自由診療では、例えば高濃度のビタミン点滴や特殊なサプリメント、先進的とされる脳のトレーニングプログラムなどが提供されています。時には「〇〇法」「〇〇メソッド」というような聞き慣れない名前がつき、欧米諸国の医療機関や〇〇博士の名前がその宣伝に並びます。これらは一回の施術やコースで数万円から十数万円、長期的なプログラムでは数百万円に及ぶこともあります。 なぜこんなに高額になるのでしょうか。その理由の一つは、保険適用外であるため、医療機関が価格を自由に設定できるからです。また、「最新の研究に基づく」「ここでしか受けられない」といった宣伝文句で特別感を演出し、高額な料金を正当化するのです。
効果のエビデンスは?
しかし、実態としては、高額な費用を支払ったとしても、その効果が科学的に証明されていないものがほとんどです。広告では、ほぼ間違いなく「最先端」を謳っているでしょう。しかし、現実には科学的な根拠に基づく最先端で最善の治療やケアは保険診療の範囲内で提供されています。それとは対照的に、一部の研究者がたてた仮説をもとに、まだその効果が未知数のものを「最先端」と謳い、提供しているのです。 そうしたクリニックで提供されている特殊なサプリメントや栄養療法の一部は、おそらく海外での研究を根拠にしていますが、その研究自体がまだマウスの段階のものであったり、小規模であったり、再現性に乏しかったりするものです。ウェブサイトでわざわざマウスの研究が紹介されているのは、確かにそれらしく見えるかもしれませんが、裏を返せば、人では何もわかっていないということです。 しかし、医療を専門としない人には、何が根拠として妥当なのかはほとんど分かりようがなく、マウスの研究でも立派な根拠に見えるでしょう。まして、仮にも医療機関のウェブサイトで医師の名前で記載されているのですから、そう思えて当然です。
不安をあおるセールストークに注意
自由診療を提供する一部の施設では、「今すぐ対策をしないと手遅れになります」などといった不安をあおるセールストークも使われることがあります。焦りや不安につけ込み、高額なコースを契約させる手法は明らかに問題ですが、当事者となればそのような冷静な判断はできなくなるものです。 また、専門的な医療知識を持たない方に対して、難しい医学用語を多用し、あたかも効果が保証されているかのように説明するケースもあります。「〇〇メソッド」などのネーミングはまさにその典型で、なんとなくカタカナ用語が並べられていると、あたかもそれが諸外国では当然のように提供されていて、日本では「まだ」行われていない最先端のように感じられるでしょう。 しかし実際には、著者の私も米国で認知症診療をしていますが、認知症領域の根拠に基づくケアに固有名詞のついた「〇〇メソッド」など存在しません。根幹となる予防や治療は、日本でもアメリカでも同じです。 また、仮にそのような最先端の方法論が存在するとして、1人または少数の医師が運営するクリニックだけが目をつけ、その人だけが提供できるなどありうるでしょうか。より多くの専門家が在籍する大学病院や国公立の病院がそんな魅力的な方法論を放っておくでしょうか。そういう言い分がクリニックのセールストークになっているかもしれませんが、それはセールストークでしかありません。
山田 悠史