東京からベンチが消えた! 「座れない街」急増中、効率的な再開発が庶民のオアシスを奪う
休憩空間欠如、効率重視の未来
この資料が描く未来の街の姿は、非常に特徴的である。 資料全体を通じて、地域の中心となる駅周辺の拠点形成や、多様なライフスタイル、次世代モビリティといったキーワードが目を引く。しかし、最新技術として「質の高い住宅」や「e-Palette」、さらには「パーソナルモビリティ」が取り入れられ、未来像が描かれている一方で、そのビジョンにはやや抽象的な印象が残る。 資料を詳しく見ていくと、人々の流れや動線は確かに機能的に設計されているが、立ち止まることや休憩することといった基本的な人間の行動に対する配慮が欠けている点が浮かび上がる。広場は防災や賑わいのために設けられ、市民の憩いの場としての視点がやや薄い。 交流の場としては、タワーマンション内の施設が提案されており、晴海通りの歩道拡張案も含まれているが、広くなった歩道は主に飲食スペースとして利用される予定だ。要するに、休憩や交流を希望する場合は、タワーマンションを購入して住民となるか、料金を支払う必要があるということだ。 興味深いのは、この計画が動的な要素、つまりモビリティや回遊性に非常に重きを置いている一方で、静的な要素、すなわち 「休憩や滞在に関する視点」 が意外にも少ない点である。この資料は、街からベンチが消えていく背景を暗示しているとも言える。開発段階では効率的な移動空間が詳細に設計されているが、 「立ち止まり、休息する場所」 に対する配慮が十分ではないと感じられる。
「歩行者優先」欠如の懸念
多くの再開発計画のなかで、この資料を取り上げた理由は、その設計思想において人間の視点が十分に考慮されていないように感じたからだ。資料には「立体的なネットワーク」と呼ばれる構想図が示されており、それが計画の特徴をよく表している。 例えば、歩行者の移動ルートを見てみると、勝どき駅から地上に出た後、晴海方面に向かうには再び上階に上がって移動することが想定されている。この設計は、多目的モビリティやパーソナルモビリティの動線を分けるための意図があるが、歩行者にとっては二度手間となる不自然な構造になっている。 都市空間では、歩行者の動線を基本に、新しいモビリティをどのように組み込むかを考えることが理想的だ。しかし、この計画ではモビリティの動線が優先されており、歩行者がその 「邪魔にならない場所」 に移動させられているように感じる。さらに、この計画は実際の人々の行動パターンを必ずしも反映していないように見受けられる。図面上では、人々が定められたルートを直線的に進む様子が描かれているが、現実の都市空間では、人々が ・道すがら店を覗いたり ・知人と立ち話をしたり ・景色を楽しんだり することが普通だ。待ち合わせ時には、目印となる場所で立ち止まることもあるだろう。しかし、この計画ではそのような自然な行動の余地が十分に考慮されていないように見える。 例えば、拡張された歩道空間には「飲食スペースを展開」とされているが、休憩する場所が商業施設内に囲い込まれており、自由に立ち止まって休む場所が確保されていないようだ。これにより、人々の自然な行動が制限され、それを商業的な目的で囲い込む意図が見え隠れしている。 そして、この立体的な動線計画が示す開発の方向性には、少し懸念を抱く部分もある。最新のモビリティ技術の導入に注力するあまり、地上の歩行者空間がやや軽視されているように感じられる。人々を上階に移動させることで、地上は新技術の実験場のような位置づけになり、自然に人々が立ち寄り、休める場所が十分に確保されていない点が気になる。