東京からベンチが消えた! 「座れない街」急増中、効率的な再開発が庶民のオアシスを奪う
無料休憩場所不足が招く都市の矛盾
「東京では無料で座れる場所がない」 という嘆きが先日、SNSで注目を集めた。投稿者は、よく皇居のベンチに座ることを話題にし、「天皇陛下だけがおれを無料で座らせてくださる」と書き込んで、多くの共感を呼んだ 【画像】「なんとぉぉ!」これが60年前の「皇居」です! 画像で見る(15枚) 再開発やインバウンド需要の増加にともない、東京では休憩できる場所がますます不足している。2024年5月4日の『産経新聞』電子版では、 「好天に恵まれて汗ばむ陽気に一息つきたいと思っても、無料で休憩できる場所は意外なほど少ない」 と報じられた。実際、都心ではベンチが見当たらず、花壇の縁や壁に寄りかかって休む人々の姿が日常的に見られるようになっている。こうした状況に対し、SNSでは、都市空間で 「利益を生まない空間」 が減少し、法令で確保しなければならない公開空地や避難経路のみが残っていると指摘する声が上がっている。 再開発の本質的な問題は、この「利益を生まない空間」を認めない姿勢にある。開発業者は都市機能や住環境の改善を掲げる一方で、実際には空間の有効活用という名目で高層ビルを優先する。その過程で、 「都市機能や住環境の改善に直接関係のない要素」 が削られていく。その代表的な例が、自由に座り、休むことのできるベンチだ。この現象は、再開発が抱える本質的な矛盾を浮き彫りにしている。公共空間の質が、収益性の前に後回しにされ、ベンチのような市民の身近な居場所が商業施設や高層ビルに押し込められてしまうのだ。 これは単なる休憩場所の問題ではなく、誰もが使える公共空間をどう確保し、どのような街を作るべきかという根本的な問いを投げかけている。
勝どき駅南エリア、タワマン計画
デベロッパーは公共空間をどのように捉えているのだろうか――。 筆者(昼間たかし、ルポライター)は都市開発の調査を進めるなかで、各地の再開発計画に関する資料を積極的に集めてきた。そのなかでも、この問題の本質をよく示している事例として、2023年6月に勝どき駅周辺の再開発準備組合が地権者に配布した資料を取り上げてみたい。この資料は、 「勝どき駅南側10~17番地区」 大江戸線の勝どき駅から晴海側に広がる民家や中小雑居ビルが密集するエリアに関するもので、「地権者様ご説明資料」として配布された。 資料では、「あくまで現時点での想定」と前置きしたうえで、地下鉄・臨海新線の建設を前提とした大規模な開発計画が示されている。その方向性としては、 ・地域の顔となる、駅まち一体の拠点形成 ・外国人を含めた多様なライフスタイル及び国際化への対応 ・周辺エリアとの連携や、回遊性を高める次世代モビリティへの対応 ・駅前及び臨海部(水辺)の特性を活かした、多様な都市機能の導入 などが挙げられている。 具体的には、現状の街並みを全て撤去し、二棟のタワーマンションを建設する計画が立てられている。各住宅エリアには ・一般住宅 ・質の高い住宅(外国人・子育て対応) を配置し、低層階には室内遊び場や保育所、ランチカフェ、フィットネスジム、メルカリステーションなどの施設を設ける予定だ。さらに、二棟の間には防災機能や地域のにぎわいを生む広場が設けられ、その広場では ・多目的モビリティ(自動運転の小型電気バスe-Paletteを具体例として明記) ・パーソナルモビリティ(具体例は明記されていないが、電動キックボードや小型の移動支援ロボットなどと想定される) が安全に円滑に通行できる空間が設計されている。