DIPファイナンスのパイオニアが目指す未来 ~ 業界再編も視野に入れた一気通貫の事業再生 ~
―Brighten JapanはDIPファイナンスというプロダクツ提供における新たな選択肢なのか
(沢田)我々は「再生支援のプラットフォーム」を目指している。振り返ると、指定銀行制の名残や株式持ち合いなどもあり、事業再生は1970年代まではメインバンクが主に手掛けていたと認識している。 ただ、直接金融の拡充や、それまでは金融機関が独占していた「知見」へのアクセスの多様化、株式の持ち合い解消、金融緩和など様々な要因が絡み合って、いわゆる「メインバンク機能」が徐々に低下し、デットガバナンスも失われていったと考える。若い頃に、主に大企業の事業再生を多く経験したが、それは債権者や株主、取引先、従業員など多くのステークホルダーへの影響が計り知れず、社会的責務の大きい仕事だった。企業の実態把握や処方箋の提示から執行まで手掛け、そのために法務や会計、税務まで幅広いスキルはもとより、ステークホルダーの利害調整も行い、全体最適の着地に持っていくという難易度の高いものだ。事業再生は本来、総合力=総合芸術の世界だ。 私自身、銀行時代にいくつもの再生案件を手掛け、川瀬も事業再生ファイナンスの実務の前線にあって、これからの時代に不可欠と考えて、事業再生子会社の立ち上げも主導した。その後、多くの案件にも取り組んだ結果、事業再生ビジネスを確立し、とりわけ、DIPファイナンスにおいては、SMBCという確固たるブランドも確立できたと自負している。 ただ、ここ数年、取引先企業が窮境に陥った場合の銀行の対応状況は、暴論かも知れないが、(取引行が)誰もイニシアチブを取らずにお互いの様子を見ながら、「とりあえず返済は止めて、資金繰りを安定させて、コンサルファームを入れて、改善を図りつつ、方策を考えましょう」と映る。そして、スポンサーを見つけて、正常化に漕ぎつけるというパターンが一部で見受けられる。抜本的ではなく、弥縫(びほう)策にも見え、過日の事業再生を見てきた者からすると、銀行は本来の社会的責務を果たしているのか、残念な状況だ。 (川瀬)別の側面から弊社の立ち上げ趣旨を補足したい。こうした窮境局面にある企業に寄り添うことができるノウハウは、特定の組織を超えて、地域金融機関等、プレイヤー間で広く共有すべきものと思っている。自社だけに貴重な経験値やノウハウを抱える、適切な協働・連携を行わずにらみ合う、そんな金融界の論理で、結果として、窮境企業にしわ寄せが行く状況は好ましくない。 一例を申し上げると、事業再生ファイナンスのプレイヤーはまだ少ない環境下、SMBC時代に事業再生ファイナンスの旗振り役を務めたが、「メガの船には乗りにくい」という金融機関もいた。他行からすると「自分の取引先を持っていかれるのではないか」との恐怖感があるのかもしれない。金融機関の間には、どうしてもそのような縄張り意識が働きがちであり、その意味で弊社のように色の付いていない所から、それぞれの舞台が潰されないように、且つ、再生スキルやノウハウを共有するやり方も必要なのではないかと思っている。 (沢田)有事に向けて、対応しうる人材等のリソースは圧倒的に足らないという肌感覚を持っている。川瀬が言うように、プレイヤーごとではなくてオールジャパンでスキルを共有し、役割を担いあって、連携・協働対応していかないと、これからの有事の時代は乗り越えられないのではないか。 こうした課題認識について、多くの地域金融機関に行脚して伝え、窮境企業が増えてくる有事の時代への対応の在り方を意見交換した。趣旨に賛同する金融機関は多い。また、地域企業は、人材や投資余力、技術等のリソースに限りがある。事業存続・再生のためには、地域跨ぎでの同業者間の連携や再編等が必要になってくる先も少なからずあるはずだ。 ただ、地域に根差して事業を運営してきた地域金融機関は取引先にそのような仕掛けはし難く、苦慮している事情も分かった。 例えば、地元の有力サプライヤーが窮境に陥ったとき、再生に向けてとはいえ、他地域にある他メーカーの系列サプライヤーとの提携話を金融機関としては持っていけない。 取引関係がある故に二の足を踏んでしまいがちな処方箋の実現に向け、しがらみのなさ故に役割を果たしうることは、弊社の強みの1つだろう。勘の良い地域金融機関の方は「泥を被って頂けるのですね」とポジティブに捉えて頂ける。 繰り返しになるが、これからは地域内での解決ではなく、地域跨ぎでの業種・業界再編も同時に仕掛けていかないと、日本の企業総体での実力や事業価値は守れない。事業再生≒事業再編でもある。 こうした野心はあるが、弊社のリソースに限りがあり、「国内産業・企業群の維持・拡充」に資する企業再生を目指す文脈で、支援対象はセレクティブにならざるを得ない。対象先は現在考えている最中だが、例えば、自動車部品やアパレル、運送、飲食、食品製造、小売、農業などを想定している。