DIPファイナンスのパイオニアが目指す未来 ~ 業界再編も視野に入れた一気通貫の事業再生 ~
―「中小企業再生ファンド」(※3)の設立も活発だ
(川瀬)地域の金融機関と組んでいく場合、保証協会の保証付き債権の問題が出てくる。当然、中小機構との連携が視野に入ってくる。ファンド形式でやるのがいいのか、(自社の)バランスシートに出来るものはバランスシートでやった方がいい気もするが、今の法律上はファンド形式にならざるを得ないだろう。 ※3 ファンド運営者がGP、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)がLP(有限責任組合員)となり、組成されるファンド。民間出資者への優先分配などが特徴
―3月15日に「企業価値担保権」の創設が閣議決定された。再生実務への影響は
(沢田)経済活動として具現化できるような仕組みにならないと定着しない。 (川瀬)正面から(法案の)主旨を捉えて、「これに基づいて出してみよう」というよりは、「どうやって出せばいいか」を考える中での手法の1つになるかもしれない。 (沢田)再生弁護士と連携した様々な手法の探求に繋がるだろう。事業再生ファイナンスと言う分野も昔はそうだった。特に、プレDIPでは、債権はスーパープライオリティではなく、資金の出し手としては、腰が引ける実態があり、それをどう工夫して克服するか、ということだ。それが実務家の腕の見せ所だが。 (川瀬)例えば、譲渡禁止特約付きの流動債権をどうDIPファイナンスの保全に使うか、というテーマがあって、呻吟(しんぎん)しつつ、自己信託という制度の活用に辿り着き、実務にビルトインした。これは一般化した。 振り返れば、当時の銀行内では「信託法上、あり得るよね」とは言われていたが、これを使おうとはならなかった。ただ、自己信託スキームのように事例の積み上げで実務として定着したケースもある。 ◇ ◇ ◇ 近年、コンプライアンスに大きな課題を抱える事例が多く報道されている。また、過剰債務や低成長に喘ぐ中堅・中小企業への対応策、地域のダイナミズムの再興が大きな課題として浮上している。 再生実務家を取材すると、こうした状況への打開策として「デットガバナンス」の復権を求める声は少なくない。 SMBCの経営陣の一角を務めた沢田氏、国内のDIP市場を作り上げた川瀬氏が独立してまで実現したい事業は、日本が抱える課題解決に向けての試金石で「一隅を照らす」チャレンジとなるかもしれない。 すでに窮境ステージごとに、多くのプレイヤーが参入し、業界は「再生バブル」の様相を呈している。そうしたなか、既存の金融プレイヤーではないメンバーの支援を得て、Brighten Japanは始動する。ステージの入口から出口までをシームレスに、統合的にカバーするプラットフォームが必要という「声なき声」が具現化されていく過程のようにもみえる。 旧来、こうした社会的要請には金融機関などが対応していた。ただ、事業再生手法が多様化するなかで、新たな枠組みも必要だ。再生弁護士をはじめ、各所から寄せられるBrighten Japanへの出資は金額以上の重みを持っている。 (東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年4月2日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)