上意下達文化からの脱却 危機的状況のパナソニックを打開するために楠見グループCEOが掲げる「啓」から「更」
シナジーの創出で「危機的状況」にあるグループを変える
―― 一方で、2025年の一字は何でしょうか。 楠見 2025年の一字は、「更(こう)」としました。この文字には、「今までのものを新しく良いものに変える」、あるいは「引き締める」という意味があります。グループが成長基調であった頃は、一人ひとりが緊張感を持って「競合の誰にも負けない」、あるいは「お客さまのお役に立ちたい」との強い思いで挑戦を重ねてきました。 それこそが、パナソニックグループ共通の行動指針である「Panasonic Leadership Principles」(PLP)で掲げた「日に新たに挑む」の実践です。 しかし、現状はどうでしょうか。競合に負けていても利益が出ているからと安心していないか、現状のやり方に疑問を持たず、それを維持し、進化させることを怠ってはいないか。そうした状況に甘んじている間に、競合は進化します。未来の世代にこの会社を託すためにも、競争に勝ち続け、成長するグループに変わらなければなりません。 そのためには現状を常に疑い、“更”に新しいやり方に変えていかなくてはなりません。現状維持は衰退を意味することになります。挑戦を重ね、成長を遂げていかなくてはなりません。 ―― 楠見グループCEOは、今のパナソニックグループを捉えて、「危機的状況」と表現しています。どの部分を「危機的状況」と捉えているのですか。 楠見 2024年度を最終年度とする中期計画で掲げた経営指標は、累積営業キャッシュフロー2兆円、累積営業利益1.5兆円、ROE10%以上の3つですが、累積営業キャッシュフロー以外は未達です。掲げた目標を達成できないことは、危機的状況といえる理由の1つです。 そして、先に触れたように上意下達の組織風土が残っていることも、危機的状況であるといえます。さらに、上が言ったことが目的化してしまう「病気」が、そこかしこにあることも見逃せません。 例えば、かつての中期計画においては、営業利益率5%という指標を掲げていました。これは、ハードルレートとして掲げたもので、5%未満の事業は切り離すというメッセージでした。しかし、これが、5%を達成すればいいというように目的化してしまい、さらに、いまだに「5%に到達すればいい」という誤った認識が残っている。 事業を継続するために大切なことは、他社よりも高い利益水準にあることです。攻めようとしている領域においては、競合よりも高いシェアを取り、効率よくオペレーションをして、競合よりもいい商品を早く出して、競合を上回る利益を出している状態にするのがパナソニックグループが目指している経営です。「そこそこ利益を出していればいい」ということが、常識としてまかり通っていること自体に問題があり、それは危機感が足りないということでしかありません。 私が社長に就任して最初に決めたのが、単年度利益には目くじらを立てないということです。単年度の利益を追うと、どうしても5%のような数字が目標になり、それを達成するために費用を削減しようとする。その結果、必要な投資をしないという悪循環に陥ります。 ですから、3年間累積営業キャッシュフローやROICを経営指標に掲げました。しかし今度は、この数値だけを重視し、それを目的化してしまう。この「病気」は、パナソニックグループの危機的状況の象徴です。2022年度に中期計画を打ち出して、3年間を経過した時点で「危機的状況」と表現しなくてはならないのは、正直なところ、とても悔しい思いです。 ―― 危機的状況を脱却できる出口には到達しているのですか。 楠見 まだ危機的状況のさなかにあります。しかも、これは一瞬にして良くなるというものでもありません。今やらなくてはならないのは、テコ入れのスピードを上げることです。パナソニックグループは、2022年4月から事業会社制を導入し、事業に関することは事業会社に任せることを基本にしています。 しかし、改革のスピードが遅いのであれば、ホールディングスがもっとテコ入れをしないといけません。それをやらないと、何のための持株会社なのかということが問われかねません。株価を見れば、やはりコングロマリットディスカウントの状態になっていると言わざるを得ません。 一方でソニーグループは、当社以上に事業の幅が広く、コングロマリットだといえます。それでも、しっかりと利益を出しているから、投資家はそれを正しく評価しています。パナソニックグループも、そこを目指してきましたが、抜けきれないところがあったという反省があります。一部で成果が出ていても、全体で見たときには成果が出ているわけではないからです。 ―― 日立製作所やソニーグループと比較すると、事業の枠を超えたシナジーが、パナソニックグループには見られません。これは、構造的に難しいことなのか、それとも他に問題があるのでしょうか。 楠見 パナソニックグループは、「縦軸」が強すぎる体質であることは否めません。B2CとB2Bでは完全に顧客層が違いますから、お客さま視点でビジネスを捉えると、シナジーが生まれにくいのは確かです。 また、グループ全体で共通した技術シナジーというものもありません。しかし、B2Cの領域の中でのシナジーや、B2B領域という切り口においてシナジーを実現できる可能性は大いにあります。ここは、もっと追求していかないといけない部分であり、やれる余地はまだまだ大きいと思っています。 B2Bでは、お客さまに対して、さまざまな製品を提供するといったように、顧客軸でのシナジーはやっていかなくてなりません。さらに、内部のオペレーションという点では、社内で利用するERP(Enterprise Resource Planning)を標準化して、効率を上げるといったことでのシナジーも追求できると思っています。 これまでできていないということは、チャンスはまだまだあるということです。とはいえ、シナジーばかりを追求して、これまでのやり方を180度変えるというのでは、お客さまに納得してもらえません。 まずは、組織間の連携をより緊密にしていくことが大切です。パナソニックグループでは、PXと呼ぶDXへの取り組みを推進し、これを経営基盤強化のための重要戦略の1つに位置づけています。その中で、お客さまのデータをどう活用するか、迅速に共有してビジネスチャンスにつなげていけるかといったこともシナジーの創出につながると考えています。