「僕は手足を失った“だけ”」なくなることはないネガティブな日との付き合い方 ― YouTuber山田千紘さん #今つらいあなたへ
20歳の時に、事故で利き手と両足を失った山田千紘(29)さん。壮絶な事故を経験しながらも、前向きに人生を歩んでいく山田さんの姿に多くの人が勇気づけられ、昨年7月から始めたYouTubeチャンネルは登録者10万人を超えました。 その一方で、事故から9年経った今もネガティブな感情と戦っていて「常に前向きでいられることなんてない」と語る山田さん。何度も困難に直面しながらも、ポジティブな発信を続ける山田さんに、つらい時間とどう向き合ってきたのか伺いました。(Yahoo!ニュース Voice)
20歳で利き手と両足を失い、スタート地点に戻った自分
――20歳の時に起きた、事故について教えてください。 山田さん: 当時、大学を中退して、ケーブルテレビの営業として働き始めたばかりでした。仕事終わりに先輩との飲み会に参加したのですが、連日のハードワークによる疲労の蓄積から、ほとんどお酒を飲めないくらい体調が悪かったんです。そのまま飲み会には最後まで参加したものの、帰りの電車で寝てしまい、気が付いたら自宅から遠く離れた駅で駅員さんに起こされました。ホームに降りてもまだ、僕は完全には目が覚めていなくて、そんな時に駅に電車が入ってきたんですね。あわてて電車に乗ろうと立ち上がった僕は、そのまま線路に落ちてしまい、電車にひかれました。僕には事故当時の記憶がないので、もちろんこれは後から聞いた話です。 病院に運ばれてからは、たくさんの人たちのご尽力で、奇跡的に両足と右手の切断だけで済み、命を取り留めることができました。ベッドで目が覚めた時は、現実感がなくて、すごくリアルな夢を見ている感覚でしたね。不思議なことに、手足の感覚はあったんですよ。その時は指の感覚まで鮮明に残っていて、要するに手足が「見えなくなっている」だけだった。それで、目やにを取ろうとしたんですけど、取れなくて。顔を洗いにトイレに行こうとしたら、ベッドから落ちてしまい、身体に激痛が走りました。その時になって初めて、「これは現実なんだ」と気付いたんです。今まで当たり前にあったものがなくなったわけですから、明日の自分の姿を想像することができなくて絶望しました。 悔やんでも仕方ないのに「あの日は体調が悪いのになぜ早く帰らなかったんだ」と後悔したりとか、手に入るわけじゃないのに「あいつの手足が欲しい」とうらやんだりとか、そんなことばかり考えていました。 ――状況を受け入れるまでには時間がかかったと思います。どのような転機があったのでしょうか? 山田さん: 事故から1週間が経った頃に、高校時代の友だちが2人来てくれたんです。彼らは、僕が手足を失ったことまでは知らなかったはずなのに、いつもと全く変わらない態度で接してくれて。大きく変わってしまったと思っていたのは、僕だけだったんですよね。「なぜだろう?」と、彼らが帰ったあとで考えてみたら「あ、そうか。僕は手足がなくなった“だけ”なんだよな」と気づきました。不思議なんですけど、そのあたりから急に、ポジティブなマインドへと切り替わっていったんです。 そこから、僕はまず、「自立して生きる」という目標を立てました。すると、自分の置かれている状況が、なんだかゲームっぽいなと感じたんです。例えば、RPGだと、はじまりの街があるじゃないですか。みんなそこからスタートして、レベルを上げて、次の街へ進んでいく。どう成長していくかはその人次第で、その過程が楽しいんですよね。僕はその時、「スタート地点に戻ったんだな」と思ったんです。ここから、もう一度人生をスタートするんだなあって思ったら、まずはレベルを上げないといけない。自分が何をしたいのかを考えて、「そこに行きたいんだったら、歩けるようにならなきゃいけないからリハビリをしよう」みたいな。自分が成長してできることが増えていくのが楽しくて、どんどんレベルアップしていこうって気持ちが沸き起こったんです。