西は初回にいきなり先頭の桑原にショートへの内野安打を許した。ボテボテの打球のバウンドが変わり、中野はランニングスローを試みたが、ヘッドスライディングを敢行した桑原の手が先に入った。それでも矢野監督はリクエスト。実らなかったが勝利への執念を見せた。続く楠本は強攻して三塁へのファウルフライ。横浜DeNAの拙攻にも助けられ、この回を無失点で切り抜けると、その裏に打線が横浜DeNAの先発、ロメロに先制パンチを浴びせた。 　トップの近本がセンター前ヒットで出塁。続く中野への初球にロメロが投じたワンバウンドの変化球を山本がファウルゾーンに弾き、近本が難なく二塁へ進むとベンチは強攻サイン。中野は畳みかけるように次のボールを狙い、一、二塁間を破る先制タイムリーを放つ。一死一塁となってから佐藤である。 「初球から強い当たりを打つつもりで集中してバッターボックスに立った」 　インコースのストレートを狙っていた。 　この9連敗中、対戦相手が徹底して攻めてきたウイークポイント。 　橋上氏は「阪神の打者は絞り球が曖昧でカウントを悪くしている。好球必打と積極性を履き違えている」と指摘していたが、佐藤の頭の中には「インコースをフルスイング」のイメージが固まっていたのだろう。阪神の歴史に名を残す名打者に「追い込まれた方が相手の投げてくるボールが絞りやすい。ウイニングショットか、弱点をついてくるかだからだ」という極意を聞いたことがあるが、佐藤の場合は、逆に初球から攻めてくるボールはインハイのストレートか、外角へ落とすボールの2つに決まっているのだから狙い球は絞りやすい。 　横浜DeNAの山本は、思い切りインコースへ体を寄せて構えていた。佐藤は、その気配を感じていたはずだ。ストレートのほとんどが手元で変化するロメロの148キロのストレートがわずかにシュート回転したことも幸いした。体を開くことなく、佐藤がドンピシャで捉えた打球は、浜風を切り裂くように虎党の待つライトスタンドへ舞い上がった。 「打球も上がり浜風も吹いていた」と矢野監督が祈るようにして見守った打球は、ライトスタンド最前列に飛び込んだ。待望の今季1号。佐藤は右手の人差し指を立てながら糸井を追い抜く勢いでダイヤモンドを走り抜けた。 「ギリギリだったんですけど入ってくれてホッとしました。今シーズン打っていなかったので1本目ということで凄くホッとしました」 　2年目にして4番を任された重圧もあったのだろう。甲子園の一発は昨年6月20日の巨人戦以来である。