【社説】COP29合意 温暖化対策へ結束を保て
地球温暖化は人類共通の課題である。人命を奪う猛暑や過酷な自然災害が頻発している。相次ぐ紛争や対立を乗り越え、世界が結束しなければ克服できない。 国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)は、発展途上国の温暖化対策のため、先進国が2035年までに官民合わせて少なくとも年3千億ドル(約46兆円)を支援する目標に合意した。 年1千億ドルの現行目標の3倍で、世界全体では年1兆3千億ドルに拡大することも目指す。先進国の資金だけで年1兆3千億ドルを求める新興国インドや途上国の一部には強い不満が残った。 大量の温室効果ガスを排出した責任と経済力に見合う資金を要求する途上国と、負担を軽減したい先進国との溝は埋まっていない。 それでも、合意に至らずに世界的な気候変動対策が停滞する事態だけは回避できた。この点は評価したい。 これから問われるのは実行だ。合意した額を先進国の公的資金だけで賄うのは難しいだろう。温室効果ガスの最大排出国である中国や中東産油国などの協力が欠かせない。 現行目標の1千億ドルが最初に決まった09年以降、この額に初めて達したのは22年だった。早期達成も課題だ。 COP29で存在感を示したのは、会場にいないトランプ次期米大統領だった。 トランプ氏は「気候変動はでっち上げ」と根拠のない主張を続け、大統領1期目の20年に米国を温暖化対策の国際枠組みパリ協定から離脱させた。バイデン政権になって復帰したが、来年1月のトランプ政権再スタート後は再離脱が確実視されている。 トランプ氏の返り咲きにより、温暖化対策に巨額の資金を拠出してきた世界第2の排出国、米国が方針転換する公算が大きくなった。その要素もCOP29における各国の歩み寄りを難しくした。 トランプ氏は大統領選で化石燃料を「掘って、掘って、掘りまくれ」と訴えた。エネルギー長官には石油・天然ガス採掘会社のトップを起用する人事を発表している。 こうした温暖化対策の潮流に逆行する姿勢は、気候変動に懐疑的な他国の指導者を勢いづかせている。「アルゼンチンのトランプ」と呼ばれるミレイ大統領は、COP29の会期序盤に自国の代表団を帰国させた。パリ協定からの離脱の是非を検討しているとの報道もある。 COP29の議長国、アゼルバイジャンのアリエフ大統領は、化石燃料を「神の恵み」と表現して反発を買った。 今回の合意形成が難航する中で、日本が交渉力を発揮できなかったのは残念だ。 日本は温暖化対策に積極的な欧州各国などと連携し、トランプ新政権にパリ協定に踏みとどまるよう働きかけるべきだ。資金協力とともに、日本が果たすべき国際的使命である。
西日本新聞