鉄道と芸術家の街に置かれた東京の「北の駅」
山手線唯一の踏切
ホームの中ほどから築堤(ちくてい)上に変わる駒込駅を発車した外回り電車は、直後は山手貨物線(湘南新宿ライン)と並走するものの、すぐに貨物線が急な下り勾配にかかり、一方の山手線は上り勾配となるので、みるみる彼我(ひが)の高低差が増していく。この先で貨物線は山手線の下をくぐると、カーブしながらトンネルをぬけ、今度は京浜東北線に並んで北をめざすのだ。 孫文の歴史的演説から100周年…トランプ新時代に高まる「大アジア主義」の再評価 山手線側の勾配の頂点に待っているのは踏切である。山手線一周34.5kmのなかで唯一残る、第二中里踏切だ。これまで山手貨物線には、目黒-恵比寿間の長者丸踏切や、代々木駅の原宿寄りに2ヶ所の踏切、青山街道踏切と厩道(うまやみち)踏切が存在していたのだが、その都度、山手線のほうは立体交差で踏切を回避してきた。しかしここでは、貨物線が道路下の掘割(ほりわり)を走るのに対し、山手線は道路と平面交差しているのである。
山手線唯一の踏切も将来的には…
道路自体は中里地区と田端地区を貫く生活道路といった感じで、交通量もそう多いようには見受けられない。しかし、運転頻度の高い山手線のこと、ラッシュ時間帯などには“開かずの踏切”となることも多く、将来的には立体交差化が決まっている。これが完成すれば山手線の踏切はゼロとなり、運転士のいらない無人運転(といっても、最初のうちは保安要員を乗せるだろうが)も視野に入ってくるというのだが、実現はもう少し先になりそうだ。 踏切を越えた山手線は勾配(こうばい)をぐんぐん下り、右へ右へと曲線をすべってゆく。池袋駅を出てすぐの右カーブといい、ここといい、山手線が環状線であることを想い起こさせる区間である。右側はずっと高台の風景だが、左手は台地が切れると東北新幹線の側壁(そくへき)が目の前をよぎる。この壁さえなければ“下界”の景色がパっと広がるはずなのだが、惜しい。 だが、じつに変化に富んだ車窓風景ではないか。山手線のなかでも白眉(はくび)だと思う。いつのまにか京浜東北線の電車が左右の線路に寄り添って、田端駅に到着する。