「いい人」でいることは心身にとって有害!? 八方美人が与える影響とその対策
人と対立するのを避けたくて、ついつい相手の要求を飲み込んでしまう? 自分の気持ちを押し殺してしまう人は女性に多く、健康面での問題を抱えやすいのだとか。イギリス版ウィメンズヘルスから詳しく見ていこう。 【写真】ある共通点が!幸福度の高い人がしている11の習慣 ハンガリー系カナダ人のガボール・マテ医師は、複雑な心の病に関する書籍を多数発表してきたベストセラー作家。緩和ケアセンターおよび依存症やメンタルヘルス疾患の治療を行うアウトリーチセンターで、人生のどん底にいる人々-自分の置かれた残酷な状況によってボロボロになり、その痛みを和らげるために取った手段によって一段とボロボロになった人々と向き合ってきた。でも、最新の自著『The Myth Of Normal: Trauma, Illness And Healing In A Toxic Culture』が焦点を当てているのは、ヘロインやフェンタニルに依存している痛ましい人ではなく、俗に言う“いい人”である。 俗に言う“いい人”とは、相手の要求を飲むことで対立を避けようとする平和主義者。その場の状況に自分を合わせるカメレオンみたいな人。世渡り上手ではあるけれど、人のために頑張りすぎて疲れてしまう人。こういう人は女性に多く、他人の感情的なニーズを気にかけすぎて自分の感情的なニーズを無視してしまう。そのため健康面で今後の見通しが暗く、多発性硬化症や認知症といった慢性的な問題を非常に抱えやすい。
感情を押し殺しすことの弊害
マテ医師は、複雑な感情の抑圧と抑制(前者は無意識のうちに起こることで後者は意識的に行うこと)は複数の疾患に関連するという研究結果に言及した。このつながりの存在を裏付けた1993年の研究では、嫌悪感を抱かせる目的で作られた映像を見た参加者が2つのグループ(感情を表すことが許されるグループと許されないグループ)に分けられた。すると「感情を抑制したグループでは、ストレス反応の典型である交感神経系(闘争・逃走反応)が活発になりました」とマテ医師は言う。 もちろん、作り笑顔やニュートラルな表情が求められるときはあるけれど、「それを習慣や強迫観念でしているときは有害となる可能性が高いです」と指摘するマテ博士は、24名の不幸せな既婚女性を対象とし、2013年に発表された10年に及ぶ調査結果を引き合いに出す。この調査では、パートナーに自分の気持ちを話さなかった人が調査期間中に亡くなる確率が話した人の4倍も高かった。「ストレスや健全な怒りを出さずにいると、人間の生理学的な機能が甚大な被害を受けます」とマテ医師。 「健全な怒りは境界線を守るための防御機能です。『ここは私のスペースだから出て行って。あなたには立ち入らせない』と言っているわけですね」。免疫系も防御機能で「この2つの機能は切っても切り離せない関係にあるので、あなたが怒りを長期間抑制すると、免疫系も抑制されてしまいます」 免疫系と感情系の相互作用(情動的免疫学と呼ばれる分野)に関する世界屈指の専門家で、英ローハンプトン大学の免疫学教授および心理療法士のファルヴィオ・ダクイスト博士は次のように語る。 「記憶する能力を持つ身体組織は、脳と免疫系の2つだけです」とダクイスト博士。「私たちが意識下で経験する脅威の記憶は脳、それ以外の目に見えない脅威の記憶は免疫系に蓄えられます」。病気がなければ健康であるということにはならない。病気を引き起こす細菌はいつだって私たちの体内にいるけれど、それでも元気でいられるのは知らぬ間に作られている生理学的な機能のおかげ。人間の肌が生まれつき弱酸性なのも、感染症を引き起こす病原体から体内の組織を守る生理学的な機能の1つ。ダクイスト博士によると、これは“受動免疫”と呼ばれる仕組み。 皮肉なことに「あなたが普段からダラダラしていると、体もダラけて受動免疫が減少します」とダクイスト博士。「その仕組みを知っていると言う人は勝手にそう思い込んでいるだけで、私たちにはアスピリンが効く仕組みさえちゃんと分かっていないんですよ」。受動免疫が減ることの問題点は、その人の体が細菌から見て感染しやすい体になること。ダクイスト博士は、この状態を「親や友達に止められても危険な恋に走ってしまう人」に例える。 「そういう人は数年のうちに自己免疫疾患を発症するかもしれません。自己免疫疾患は、その人の思考の癖に合わせて免疫細胞が自分の機能を調節し、自分自身の細胞を攻撃してしまう病気です」とダクイスト博士。「これは『あなたがしていることをやめてください。私には言葉が使えないので、事実(体の不調)をもって説得にあたらせてもらいます』という体からのメッセージです」