「いい人」でいることは心身にとって有害!? 八方美人が与える影響とその対策
思考と体のつながり
53歳のレイチェル・クレア・ファーンズワースは、何年も自称“いい人”を演じてきた。「私は感情的虐待になるような恋愛ばかりしてきて、紛争地帯で生きているような感覚に慣れていました。起きた瞬間から1日ずっと不安でも、私はもともとそういう人間なんだと思っていました」 2005年、甲状腺(心拍数や体温などを調節する超重要な首の腺)に呼吸を邪魔するほど大きなしこりが見つかった。そのしこりを切除してからは毎日のサプリメントで甲状腺ホルモンを補っている。市役所の職員から催眠療法士に転向したレイチェルによると、この甲状腺の問題や局所的な問題(頻発する扁桃炎など)を引き起こしたのは、間違いなく抑制された感情だった。この抑制された感情とは、出生自体がトラウマ的だった自分は生きているべきではないという思い込み。 「物心ついた頃から、私は人が自分より優れていると信じていたので、自分の力を人にあげてしまいました。そのままでは人に愛される資格がないと思っていたので、“いい子”でいる努力をしました」 レイチェルは思考と体のつながりを信じており、催眠療法をはじめとする補完療法でトラウマを乗り越えることが身体的な問題の治癒につながると考えている。 病気の発現に思考と性格が深く関わるという理論には、とげとげしい側面がある。マテ医師は自著の中でこの問題を堂々と取り上げ、このような理論が暗に患者を非難する(病気を患者の思考や性格のせいにする)傾向にあることを指摘した米国の生命倫理学者マーシャ・エンジェル博士の言葉を引用している。「すでに病気で苦しんでいる患者が(病気という)結果に対する責任を負わされて二重苦を強いられるのは間違っている」 子宮内膜症やクローン病といった幅広い慢性疾患の患者を持つ健康心理学者のスラ・ウィントガッセン博士も、エンジェル博士の意見を支持する。精神的なストレスが人間の生理学的な機能に与える影響を否定するつもりはない。実際に、母親が感じている精神的なストレスは胎児の脳と腸内細菌叢の発達に影響する。でも、ウィントガッセン博士には、問題の原因が100%患者の思考や性格にあるという決定論的な考え方が理解できない。 「社会は、女性が抱える問題の責任を女性に押し付けたがります」と話すウィントガッセン博士によると、体調不良の原因は幅広く、遺伝の可能性もあれば、幼少期の経験や現在の生活の可能性もある。また、自分の性格のせいにすると、他の要素(睡眠や食生活)がないがしろにされるだけでなく、病気を克服することが一層不可能に思えてしまう。 「人の性格は固定されているわけでも、常に安定しているわけでも、一生変わらないわけでもありません」とウィントガッセン博士。「自分の性格のせいにすれば楽と思う人がいる一方で、その性格を理由に自分を責めるという悪循環に陥ってしまう人もいます」