「どうか、お父さんを連れて行かないで下さい」 フィリピン人男性への“退去強制処分”の取り消しと在留許可を求める訴訟が始まる
「家族が一緒に暮らす権利」は国際人権法で定められている
上述した通り、男性はエージェントに「だまされた」かたちで来日し、その後約1年間、組織によって日本国内での労働を強制された。指宿弁護士は、男性の状況は「人身取引」と「奴隷労働」にあたり、国際的な常識からは「保護の対象」と見なされるべきだと指摘する。 「しかし、入管は外国人のことを『管理』の対象としてのみ見て、保護や支援が必要な人間だと見なそうとしない」(指宿弁護士) また、男性の妻のように正規で入国した後にオーバーステイの状態になった外国人については、後から在留特別許可が与えられる事例は比較的多いという。しかし、男性のように入国の時点で非正規であった、つまり「不法入国」した外国人に対して在留特別許可が与えられることはほとんどない。 駒井弁護士は、男性が非正規で来日したのはエージェントにだまされたことが原因であったことを強調したうえで、「『正規に入国したか否か』だけでなく、背景にある具体的な事情に基づいて在留特別許可の可否を判断すべきだ」と語る。 駒井「20代でだまされたことが60代になっても問題とされることは、あまりにバランスが欠けている。 在留特別許可は、単なる『恩恵』ではない。『家族が一緒に暮らす権利』は国際人権法によって定められている。そして、憲法上、確立された国際法規は誠実に遵守されなければならない(憲法98条2項参照)。与えるべき時に在留特別許可を与えないことは、違法だ」(駒井弁護士) 指宿弁護士は「子どもに何の責任もないということは、皆さんにも理解できるだろう」と言う。 「子どもに在留特別許可を与える時には、原則として、その親にも与えるべきだということも理解できるだろう。 すべての親に在留特別許可を与えるべきかどうかという点では、意見が割れる。しかし、今回の事例では父親にも与えるべきだということは、理解してもらえるはずだ」(指宿弁護士)
弁護士JP編集部