中国に束縛されるVW クルマ産業の未来勢力図から日本は消えない
内燃機関エンジンの自動車から電気自動車(EV)への切り替えが世界で声高に叫ばれる中で、日本の自動車産業について世間で流通する言説に、モータージャーナリストの池田直渡氏は異議を唱えます。池田氏の解説です。
◇ 2018年は日本の自動車の未来が危ぶまれた年だった。1つは欧州に端を発する「電動化」の流れ、もう1つは中国の台頭だ。メディアを賑わすこうした絶望論の中で描かれる日本の自動車産業の近未来はこんな形になっている。 “世界はすでに一気にEV化に舵を切った。しかし日本の自動車産業はこれまで長く続いたサプライヤーとの蜜月関係を維持するためにEV化に消極的で、内燃機関に囚われている。内燃機関は多くの部品で構築されているため、傘下の多くのサプライヤーを潤すし、内燃機関技術でのアドバンテージと成功体験へのこだわりが強く、すでに明確になったEVシフトに完全に日本のメーカーは出遅れている。 そして中国だ。中国は共産党の強い指導によって、一気にEV化へと転進しており、すでに技術的アドバンテージを築きつつある。年間新車販売3000万台。世界の1/3を占める中国がEV促進を決めた以上、それはもう世界の趨勢になる。まもなく日本の自動車メーカーは中国自動車メーカーの軍門に降ることになる” これらはよく目にする論調なのだが、この未来図は完全な間違いである。EV化は2050年位にはある程度達成されるかも知れないが、向こう10年で内燃機関を持たないクルマのシェアはどう逆立ちしても10%を越えることはない。
「電動化」は「EV化」ではない
欧州各国は、最初のうちこそ先鋭的に「内燃機関禁止!」とぶち上げていたが、徐々に日和って今では「内燃機関オンリーは禁止!」に後退している。それが何を意味するかと言えば、「EV以外は認めない」と言っていたのが「やっぱりハイブリッド(HV)もOKです」に変わったということだ。 「電動化」を「EV化」だと捉えている人は多いが、それは誤解である。電動化とは何らかの電気仕掛け、つまりモーターを持つことを意味し、プリウスなどのHVも含む。対してEV化は、一般に日産リーフなどのバッテリー電気自動車を意味し、つまりは欧州の「電動化」に向けた発表は「モーター付きのクルマに変えて行きましょう」という話でしかない。すでに国内販売の4割がHVであるトヨタに25年遅れで、ようやくスタートラインに着いた形だ。 最大の問題は欧州の自動車メーカー自身が「電動化」の調達背景をロクに持っていないという点にある。多少なりとも準備があるのはドイツのメーカーとボルボくらいで、イタリア、フランスのメーカーは壊滅的だ。では進んでいるドイツがどの程度かと言えば、中国の策略にはめられて身動きが取れなくなりつつある。