中国に束縛されるVW クルマ産業の未来勢力図から日本は消えない
一例を挙げてみよう。フォルクスワーゲン(VW)は電動化推進のキーとなるバッテリー工場の建設を華々しく発表した。25万台規模の工場なので、VWグループの年間生産台数約1000万台に対して、2.5%分のバッテリーをまかなえる計算になる。2025年には100万台をEV化またはPHV(プラグインハイブリッド)化するという目標を掲げているVWだが、バッテリーの供給に関する目処はまだ目標の1/4のラインへ向けて鋭意努力中と言った体だ。 実は、VWの新バッテリー工場計画の内容を精査すると、バッテリーセルは中国から調達することになっており、鳴り物入りの新バッテリー工場の実態はアッセンブルだけ、バッテリーの心臓部であるセルの開発・生産は中国任せとなっている。
新車の4割を中国市場で販売し、特に中国マーケットの利益率が極端に高いVWにとって、中国はグループ全体の利益の源泉であり、共産党から「中国でクルマを売りたいなら中国製のバッテリーを採用すること」という条件を提示されても飲むしかなかった。同じ条件を突きつけられたゼネラルモータース(GM)は、中国製バッテリーの安全性と性能が社内規定を満たさず、新型EVの開発が無期限延期となっている。同じ轍を踏まない保証はないのだ。 こうした生産背景をフラットに見れば、VWはまだEV化に対して、最初の25万台分のバッテリー供給問題へのソリューションすら確立できていない状態であり、VWが牽引する欧州の技術水準で「内燃機関の生産終了」などと先走ったことが言える状態とは思えない。
バッテリー供給体制を固めたトヨタ
では対比としてトヨタはどうなっているか? トヨタは2017年の暮れに、パナソニックとの提携を発表した。もちろんこの先世界で争奪戦の激化が必至なバッテリーを間違いなく確保するためである。おそらく中国からは厳しいプレッシャーが掛かっているはずだが、恐らく中国生産専用の別モデルを用意するなど、何らかの対策を立てて、最も技術と品質が安定しているパナソニックからのバッテリー供給を確定させた。 提携記者会見で明かされた見通しでは、2030年ごろ、HVとPHVが450万台。EVが100万台となる。年産1000万台のトヨタの場合、これで電動化モデルが全生産数の過半に達する。トヨタ幹部の1人は「無責任なことは言いたくないので、バッテリーの供給体制をしっかり固めるまで発表できなかった」と言う。裏返せば、EV100万台+HV450万台を達成するためのバッテリー供給をパナソニックに約束させたということでもある。 結局のところ、生産実現化のための段取りもないまま「EV時代の幕開け」を高らかに叫ぶやり方と、着実な裏打ちができるまで言わないやり方の違いである。勢いで雰囲気を盛り上げることが市場のイメージ作りに有効な場合もあるだろうが、誠実な姿勢とは言えないのもまた事実だろう。 それでもなおトヨタに向けては「現実にEVを作ってないではないか? HVの要素技術でEVは簡単にできると言いつつ、作らないのは何故なのか?」という疑問の声は上がる。 それは大抵「トヨタはどうして時代の要請を無視してEV化に消極的なのか?」という苛立ちの混じった問いかけである。しかし問いに答えるのは簡単だ。トヨタに限らず、消極的な生産台数でもEVに全く納車待ちが発生していないのは何故なのか? 色眼鏡を外して直視すれば、「EVがそこまでの人気商品ではない」ことに尽きる。ミニバンが売れるとなれば雨後の竹の子の様にミニバンをリリースし、軽自動車が売れると言えば見分けが付かないほどのニューモデルを発売する自動車メーカーが、売れる商品を放ってはおくはずはない。