子どもの「心の不調」の大半は「病気」ではない…精神科医が明かす「根本的な治療手段」
「自分の言葉」を獲得している子は心配ない
鳥羽:医者から見て、子どもの不調が精神疾患ではなく、家庭や学校のトラブルに原因があると判断したとしても、医者が親に対して「子どもに問題はありません。親のほうに問題がある」と指摘するのもなかなか難しいですよね。 尾久:そうですね。「みんなで話して合ってみて」と促しはしますが、我々が家庭に介入することはできません。特に、からだの不調で内科を受診するケースだと、心の問題であることを否認している状況からスタートするので、「親に問題があります」「学校でトラブルがあるのでは?」とは、とても言えない。 だから何度か受診してもらって打ち解けてきたタイミングで、マイルドに直面化させていく方向性を取るしかありません。当然、解決には時間がかかります。 鳥羽:「マイルドに直面化する」とは、よいフレーズですね。問題を直視することを避けていては解決に至らない。しかし、いきなり熱湯に入らせても、飛び出して逃げていっちゃいますから。 尾久:子どもは心とからだがイメージとして結びついていないので、心の不調がからだに現れているとは思わない。だから両者を結びつけてあげる必要があるんですが、そこは技術が必要ですね。「学校行きたくないんだよね」ではなく「学校行くのをからだが拒否してるみたいだね」みたいな言い方をしたりとか。 鳥羽:よくわかります。心とからだが結びついていない、言い換えれば、自分のからだの違和感がうまく言語化できていない、そんな思春期の問題を抱えて寡黙だった子が、二十代になって再会すると、とても雄弁になっていることがよくあります。 見事な変身ぶりにいつも感動するんです。さなぎから蝶に羽化したかのような劇的な変化です。そういう変身を遂げた子は、さなぎの時期に自分の内側へと潜って、自分だけの言葉を獲得してきたんだなと思う。 尾久:稀に、子どもが突き抜けすぎちゃってて、親が追い抜かれているケースもありますよね。例えばこんなことがありました。 「中1の子どもが部屋に引きこもって困ってます」と相談に来たので、本人に話を聞いてみたら「周りの子たちとは合わないので、部屋で本を読んでます」と。「何を読んでるの?」と聞いたら、ある哲学者の本を読んでいると言うんですよ。「その本、僕も読んだよ」と話していくと内容も完全に理解している。 鳥羽:賢い子なんですね。 尾久:そう、全然心配ないんです。でも、親は子どもがどういう状態なのかがよくわかってないから不安だった。 鳥羽:親が子どもに不安を投影して、問題をつくってしまうということは多々あります。その意味で、親が現状のままでいいと納得するだけで「解決」する子どもの問題はたくさんあると思います。その子のように、自分で言葉を獲得していく子はあまり心配はないですね。