“機械知能”はAIを超える? トヨタやユニクロも頼るNEXTユニコーン「Mujin」が挑む産業ロボット革命
人工知能(AI)とは似て非なる「機械知能(マシンインテリジェンス=MI)」で、急成長を続けるスタートアップ企業をご存知だろうか。産業用ロボットの制御ソフト開発を手掛ける「Mujin(ムジン)」だ。今やトヨタグループをはじめ、ユニクロ、花王など日本の最有力企業がMujinの機械知能を導入し、売上高100億円台も視野に入る。 Mujinが選ばれる理由は、「AIと比べて機械知能の方が数倍以上の性能を発揮するから」(滝野一征 Mujin CEO)だという。日本のものづくりや物流の現場に変革をもたらしている機械知能とはいったい何なのか? ※この取材の様子は、テレ東BIZのオリジナルドキュメンタリー〈最強のロボットベンチャー! NEXTユニコーン“機械知能”のMujin【日経新聞電子版コラボ第3弾】〉でも取り上げた https://txbiz.tv-tokyo.co.jp/unicorn/vod/post_302172? utm_source=foresight&utm_medium=link2&utm_campaign=unicorn ) ***
世界をリードする技術でユニコーン企業目前!
7月上旬、セントレア空港(愛知県常滑市)に隣接する展示会場で開かれた「ロボットテクノロジージャパン」。トヨタ自動車と、その下請けである「ケイレツ」が集積する中部地区は日本のものづくりの中心地とあって、会場内は熱気に満ちていた。中でも、特に人だかりができている一角がまさにMujin のブースだった。 2011年創業の「Mujin」は、日経新聞の「NEXTユニコーン調査2023」で企業価値1186億円と評価され、上位8位にランクインする。企業価値10億ドル(約1420億円)以上の非公開スタートアップに与えられる称号「ユニコーン企業」まで、あと一歩の位置にいる。 今やトヨタグループをはじめ、ユニクロ、花王、イオンなど日本の最有力企業がMujinの機械知能を導入し、効率化を実現している。たとえばトヨタグループでは、製造工程間で必要となる搬送作業や、仕分け作業を自動化し、工場内物流の最適化を図っている。ユニクロは、倉庫内でのアパレル商品のピッキングから箱詰めまでの自動化を実現させた。 人だかりをかき分けて、Mujinのブースに近づくと、中心にあったのは、物流倉庫でよく見かけるアーム型ロボットだった。そのロボットアームが、大きさの異なる箱をピックし、パレットの上に丁寧に積み上げていく。パレットの上に箱がたまると、今度は、「AGV」と呼ばれる、ロボット掃除機の大型版のような搬送ロボットが近くにやってきて、パレットごとキューブ型の保管スペースに運んでいく。 ただ、これまでAmazonなどの大型自動化倉庫を見た経験もあり、「どこが本当にスゴいのかはよくわからない」というのが率直な感想だった。 そこで、ロボットアームやAGVの動きを熱心に見学していた男性に声を掛け、「なぜMujinに注目しているのか」と聞いてみると、予想外の答えが返ってきた。 「これは今まで世の中になかったもの。まさに世界をリードする技術なんですよ」 実は、この男性、コンベヤ用のモーター内蔵型ローラーで世界シェア5割を握る伊東電機(本社・兵庫県)の伊東徹弥社長だった。物流を支える有力企業の社長がここまで言うことに驚かされた。そして、その伊東社長にロボットの動きなどを説明していた男性こそが、Mujinの滝野一征CEO(39歳)だった。 滝野は小柄な体格で、関西訛りの少し高い声だ。物腰の柔らかい人物というのが第一印象だが、「Mujinの技術は他と比べてどこが違うのか?」と率直な質問をぶつけると、その口調は一気に力を帯びた。 「まず、Mujinのロボットアームは、形が異なる箱でも、ピックする順番や置く位置をロボットが自分で判断し、パレットの上に積み上げることができます。そして搬送ロボットのAGVは、的確なタイミング、的確な量を判断して保管場所に持っていく。さらに、製品の種類を判断し、あまり使われない長期保管用の製品は奥の方に置くといったことも行う。また、5台あるAGVのうちたとえば2台がトラブルで止まっても、残る3台が動き方を変えて作業を進めることもできる。外から見る人はトラブルが起きていることすら気付かないでしょう。これら全てを制御する“頭脳”そのものがMujinの核となる技術なんです」 滝野によれば、ハードウェアは他社と共通でも良く、様々なハードウェアを制御するソフトウェアこそがMujinの本質なのだという。そう言われて、ロボットアームをよく見てみると、確かにそれらは、産業用ロボットで知られる大手企業「安川電機」や「ファナック」の製品だった。 ただ、ハードウェアの部分にも、Mujinのオリジナルに見えるものもあった。ロボットアームの真上に吊されている「3Dビジョンカメラ」だ。 そして、そのカメラが捉えた映像がコンピューターの画面に立体的に映し出されていた。これは「デジタルツイン」と呼ばれるものだという。 デジタルツインは、単なるカメラ映像だけではなく、数十ものセンサーによって成り立っている。たとえば「力覚センサー」は運ぶ物体に加わる力を測定し、「光電センサー」は物体の位置や動きを検知する。これらのセンサーから得られるデータも組み合わさることで、物理的な動きや状態を精緻に再現できる。 Mujinのソフトウエアが、デジタルツインを通じて、製造ライン全体の動作や性能をリアルタイムで把握。トラブルが起きたときは即座に検知し、必要な調整を迅速に行うことができるだけでなく、ロボットの動きを止めなければならない深刻な問題が発生した際には、デジタルツインの記録を遡って原因を正確に特定することもできる。これにより、迅速な復旧が可能になるという。 ロボットがMujinのソフトウェアによって、自分で状況を判断して動いていることを聞くと、これこそ「人工知能」だと思うのだが、滝野は、即座にそれを否定した。 「僕らは『機械知能』と呼んでいます。人工知能が目指す最高峰は人間ですが、機械知能はそうじゃない。物流や工場の現場では、人間の数十倍もの能力を発揮するのが、機械知能のすごいところなんです」 人間の知能や認知能力を模倣し、人間と同じように考え、判断し、学習できることを目指すものが人工知能だとすると、機械知能はもともと目指す到達点が違うのだという。