“機械知能”はAIを超える? トヨタやユニクロも頼るNEXTユニコーン「Mujin」が挑む産業ロボット革命
工場に人工知能の「不安定性」は許されない
機械知能とは何か、さらに理解を深めるため、東京・江東区にあるMujinの本社を訪ねた。再会した滝野がさっそく案内してくれたのは、Mujinの心臓部だ。滝野がその部屋の扉を開けると、真剣な表情でパソコン画面に向かい合う人たちの姿が現れた。 「ここが機械知能の開発を行っているエンジニアたちの部屋です。スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学や、日本では東大など、世界でも一流の大学の出身者ばかりです」 Mujinは機械知能の開発にあたり、エンジニアたちのリモートワークを許可していない。全てのエンジニアたちが、この部屋に集まり、各分野のリーダーたちのもと1日中、システムの改良に向けた格闘を続けている。リモートを許さない背景には、機密事項が漏れることを避ける狙いがあるのだろう。 昼時の社員食堂には、多様な国籍の社員たちが集まっていた。ビュッフェ形式の料理には、ハラル(イスラム教の戒律に添ったメニュー)対応、ベジタリアン対応といったものもある。 「ミシュラン星付きのレストランのシェフをスカウトし、社員にはすべて無償で提供している」(滝野)という。 世界中から集まった優秀なエンジニアたちを束ねる人物が、本社内にあるロボットのデモスペースにいた。Mujinの最高技術責任者(CTO)デアンコウ・ロセン(40歳)だ。 実は、ロセンこそが機械知能の生みの親であり、滝野とともにMujinを立ち上げた共同創業者でもある。世界最先端のAI研究で知られるカーネギーメロン大学ロボティクス研究所出身のロセンは、ここで自動運転の技術に使われる「モーションプランニング」を研究し、在学時から世界的に知られる研究者となった。 なかなかメディアの取材を受けないロセンだが、今回、滝野と2人で、久しぶりにインタビューに応じてくれることになった(NEXTユニコーン「Mujin」【モーサテシリーズ特集 未公開インタビュー】https://txbiz.tv-tokyo.co.jp/nms/vod/post_302021? utm_source=foresight&utm_medium=link3&utm_campaign=unicorn )。 Q「人工知能」をうたうライバル企業もあると思うが、それらの企業の技術と、Mujinの「機械知能」とは何が違うのか? ロセン「(人工知能に)完全にデータを投げて、ロボットの神様に祈って『これができますように』という機械学習のやり方があるが、それはあまり実績を出していない。(Mujinの機械知能は)周りの環境を把握していれば、工場内の様々な状況に応じてロボットが正確に反応する。そこが一番の違いだと思っています」 滝野「Mujinの機械知能は、ディープラーニングのようにめちゃくちゃデータを読み込ませてインテリジェンスを生み出すのではなく、工場内のしっかりしたデータを基にしている(ソフトの用途は限定されるが安定する)。機械知能は、従来の一般的なプログラミングと、人工知能の中間にあるとも言えます」 ロセンと滝野が強調したのは、機械学習(主にディープラーニング)をベースに開発された人工知能の「不安定性」だ。 彼らの言う「不安定性」は、たとえばChatGPTのような生成AIを使ったことがあれば理解できる。様々な質問に対して驚くほど素晴らしい回答をしてくれる一方で、たまに、明らかに事実でない内容が含まれている。 滝野「僕たちのシステムが入っているような工場は、人工知能のように『失敗から学びます』ということが許される現場ではありません。たとえば自動車部品の生産が半日止まる、1日止まるとなったらすさまじいダメージになるわけですから」 また、2人によれば、ディープラーニングをベースにした人工知能は、「機械知能」に比べて状況判断に時間がかかるうえ、その成り立ちの特性上、ある判断がなぜ下されたのか、その理由をユーザー自身が知ることができない、という問題も生じるという。 ロセン「我々の機械知能は、デジタルツインに基づいてロボットを動かします。だから、何か問題が起きれば、原因をすぐに突き止められる。その部分も人工知能との大きな違いです」