「齋藤知事への内部告発は不可解なことが多すぎる…」舛添要一元東京都知事が指摘、兵庫県政の「大いなる違和感」と「地方政治の惨状」
SNSが選挙の当落を左右する時代へ
今後は、SNSの使い方が選挙の当落を左右すると言ってもよい。 SNSと言えば石丸伸二である。SNSを活用しての石丸の「居眠り議員」批判は、全国的に話題を呼び、石丸のみならず、安芸高田市の宣伝にも大きく寄与した。ふるさと納税寄付額も倍増する伸びとなった。 しかし、市民の中には、市政を混乱させたことを厳しく批判する声も絶えなかった。そのような中、石丸は、任期満了を待たないで、2024年6月9日で市長を辞職し、東京都知事選に出馬したのである。 SNSで発信し、それを拡散させて街頭演説の動員に使い、さらに演説光景を大衆にSNSで拡散させるという手法で、知名度を上げていった。マスコミも、その現象を追い、それを報道したため、一気に時の人となったのである。 石丸は、街頭演説を229回行っている。これに対して、小池百合子がわずか12回しか街頭演説を行わず、学歴詐称批判などを避けるために、公務を理由にステルス戦略をとったが、それとは対照的であった。結果は小池の当選であったが、石丸は蓮舫を抑えて2位に躍り出たのである。
浮き彫りになった「二元代表制」の限界
日本の自治体は、首長と議会の「二元代表制」となっている。首長も議員も、直接選挙で選ばれるので、正統性は同じである。議会は、予算を握っているので、首長に抵抗できる。 また、百条委員会という首長攻撃手段もある。地方自治法100条に定められた百条委員会とは、地方議会が必要に応じて設置する特別委員会で、正当な理由なく関係者が出頭、証言、記録の提出を拒否したときには禁固または罰金に処すことができるようになっている。 議会は、これを武器にして、「辞任しないなら百条員会を設置するぞ」と恫喝するのである。まさに、政治的武器である。今回の兵庫県でも、この武器が使われている。 さらに選挙区について言うと、自治体全体から一人選ばれる首長に対して、自治体にもよるが、議員は細分された選挙区から選ばれる。例えば、東京都の場合、足立区から選出される6人の都議は、足立区の有権者の要求を最優先する。 そこで、悪く言うと、地元の利益のための利権政治に終始するフィクサーになるケースが多い。知事が東京全体の改革を試みても、それが地元の利益を侵害するときには、フィクサー議員たちは抵抗集団となる。 単純化して言えば、知事に残された選択肢は、彼らと手を組んで改革の旗を降ろすか、マスコミなどの力を借りて対決するかである。後者を選択しても、勝つとは限らない。前者を選択すれば政治的には安泰だが、改革は頓挫する。 国会の場合、議員が経験を重ねて大臣になるので、与党の議員と内閣が利権で対立するようなことはない。国会議員も選挙区の利益を大事にするが、自分の所属する党内で国全体の利益と調整できるようになっている。自民党の場合、全議員が参加できる政務調査会がある。 地方自治体の場合、ほとんどの首長が無所属で立候補するので、与党との調整は、与党の幹部(ドン)を通じて行うことになる。フィクサーの頭目のようなドンと対立すれば、政策遂行の邪魔をされることになる。 これが、二元代表制と呼ばれているものの実態であり、国会から都政に移って、「ひどい職場に来た」と痛感したものである。私に政治的能力が欠如していたこともあって、早期に都知事の座を降りたが、私は議院内閣制を支持したいと思う。 そうでなくても問題の多い地方の政治が、二元代表制のために、さらに沈滞しているのを感じている。今回の兵庫県政の混乱のように、地方政治の惨状は、日本衰退の原因にもなっている。
舛添 要一(国際政治学者)