老舗酒造が手がける〝脱炭素〟日本酒とは<シリーズ SDGsの実践者たち>【調査情報デジタル】
「米を生産しても農家は全く儲かりません。足柄平野ではもともと水田だった土地の多くが、耕作放棄地になっています。発電と組み合わせることで儲かる仕組みができれば、米の生産を続けることができると思い、水田でのソーラーシェアリングを始めました」 農作業をしやすいように、太陽光パネルは1本足型の支柱で設置されている。パネルは1枚あたりの面積が広いものを使っていて、その分発電量も大きくなる。一方、水田では農薬や肥料を使わない自然栽培の手法を採用。収穫量は多くはないものの、米を販売した金額の10倍から15倍の売電収入がある。 井上さんと小山田さんは地域の勉強会などで面識があり、ソーラーシェアリングを活用して日本酒を造ることを2人で発案。水田で発電した電力を、電力会社の「みんな電力」を介して酒蔵で使用するとともに、自然栽培米による日本酒作りを始めた。 ■3年間の試行錯誤を経て完成 酒蔵でソーラーシェアリングの電力を利用することで、井上酒造では日本酒の製造過程で二酸化炭素の排出をゼロにすることができた。ただ、米作りは順調にはいかなかった。 2018年は台風の影響で全く収穫できず、翌2019年もごくわずかの収穫量で、酒を仕込むには足りなかった。2020年に300キロほどの米を収穫できて、2021年にようやく最初の酒が完成した。その時のことを井上さんは次のように振り返る。 「どんな酒ができるのだろうと思いながら仕込みましたが、ふくよかでキレがある、美味しい味の日本酒になりました。おそらく創業した頃も、『推譲』と同じように地元の自然栽培米を使って酒を造っていたと思います。当時はどんな酒ができていたのだろうと思いながら仕込んでいます」 「推譲」に使っている米は、神奈川県で開発された食用の品種。最初の年は「キヌヒカリ」で、現在は「はるみ」で仕込んでいる。4合瓶で700本を生産し、井上酒造や地元の酒屋などで販売する。全て地元で完結しているのは、井上さんのこだわりだ。