YOASOBIが語る、2023年を代表する名曲「アイドル」に込めた“想い”とは?「人に見せづらい部分も曝け出す覚悟で…」
YOASOBIの快進撃は本物だ。2023年にリリースされた「アイドル」は国内ビルボードチャートで前人未到の21週連続1位を記録したほか、YouTubeやApple Musicなどのグローバルチャートで軒並み上位を記録。また、デビュー曲「夜に駆ける」を筆頭にストリーミングでも億単位の数字が並ぶ。さらに強調しておきたいのが、Ayase本人が「フォーマットをつくらないのがYOASOBIのフォーマット」と語っているように、音の質感やジャンルが毎回バラバラであることだ。2010年代がKポップの時代だったことは周知のとおりだが、20年代はJポップが世界を席巻するのかもしれない。そんな予感を抱かせるほど、ふたりは無限の可能性に満ちている。 【写真】YOASOBIのふたりの撮り下ろしカット
Pen最新号は『クリエイター・アワード2023』。私たちの心をゆさぶる作品を生み出した彼らが、いま考えていること、見ている景色とは? 第一線で活躍する彼らの素顔と背景に迫りながら、輝き続けるクリエイションに敬意を表し、たたえたい。
リミットがあって儚いものだからこそ、大切にしたい ─ Ayase
YOASOBIと聞いて最初に思い浮かべる楽曲といえば、やはり「夜に駆ける」と「アイドル」。時代精神が鮮烈に表現された名曲中の名曲だ。今回はその2曲を起点として、楽曲制作のアプローチ、そして「ふたりがこの時代に対して感じていること」に迫る。 まずは、コロナ禍で人々の生活が規制された2020年に爆発的かつ、長期的なヒットをとばした「夜に駆ける」。死神に取り憑かれてしまったパートナーをもつ主人公が、ビルの屋上から飛び降りようとする彼女を幾度となく引き止めるが、実は本人もブラック企業で働きながら日々精神をすり減らす身であり、最後はふたり揃って夜の空に身を投げる。強烈にダークな、しかしながら現代人の心情を捉えた小説『タナトスの誘惑』を原作として書き下ろされたこのリリックは大きな話題を呼び、ネット上にあふれた考察記事が副次的なバズを引き起こした。 一方でそのサウンドは、あたかもすべてを諦め切っているかのように飄々としていた。ベクトルがまったく異なる歌詞と音が一体となって耳に入ってくる時、物語に対する捉え方が変化していく。「死=暗いという前提がそもそもおかしいのでは?」という疑問がムクムクと湧き上がってくるのだ。YOASOBIのコンポーザーであるAyaseは、この曲に込めた意図をこう話す。 「別に暗いものをつくろうとしたわけではありません。個人的に、『いつかは終わるけどね』という厭世観にグッとくるんですよね。未来永劫美しいものではなく、リミットがあって儚いものだからこそ、大切にしたい。生と死に関しても、ふたつを切り離せるわけではなく、隣同士にあるのが当たり前なんじゃないかと。自分はただ明るいだけ、暗いだけでは感動できないけれど、泣き笑いされるとつられて泣いちゃうから、YOASOBIの曲もそのバランス感覚で書いています」 そんなAyaseの世界観がポップスとして昇華されていく過程において、ikuraのヴォーカルが果たす役割はとてつもなく大きい。サウンドと歌詞の対比は、そのままふたりの化学反応にもリンクする。Ayaseは、10代の頃からバンドを9年間続けるも、体調不良に見舞われてしまい解散。その後、精神的にどん底の状態で書き上げたボカロ曲「ラストリゾート」がソニー・ミュージック担当者の目にとまり、YOASOBIに参画することに。そこからヴォーカリストの候補を何人か挙げていくなかでAyaseの耳を瞬時に捉えたのが、「シンガーソングライター・幾田りら」としてSNSに歌唱映像を投稿していたikuraの声だった。ふたりの音楽的な原点はともにJポップだが、彼女の音楽的な趣味嗜好は、かつてラウドロックやハードコアにのめり込んでいたAyaseのそれとはずいぶん異なる。 「3歳までシカゴで暮らしていたので、家族も友達も、ハイスクールの子たちが歌って踊るような映像作品を観るのが当たり前の環境でした。入り口はセレーナ・ゴメス、アリアナ・グランデで、物心ついて最初に買ってもらったCDはハイスクール・ミュージカルのサントラ。その頃から英語で歌う真似ごとを始めて、自分なりにフェイクやホイッスルボイスを練習していたのが、いまの声帯のもとになっているんだと思います」