YOASOBIが語る、2023年を代表する名曲「アイドル」に込めた“想い”とは?「人に見せづらい部分も曝け出す覚悟で…」
人に見せづらい部分も曝け出す覚悟をもって ─ ikura
そんなふたりの化学反応が如実に表れたのが、23年を代表するアンセム「アイドル」だ。とくに冒頭いきなり現れるラップは、これまでの楽曲と趣を異にする「強さ」があり、一度聴いたら頭から離れない。これは想定外のものだったと、Ayaseは話す。 「もともと自分はヒップホップが好きだったので、いつかYOASOBIでもやってみたかったんです。ただ、ikuraがラップをした時にどうなるかは正直読めなくて。で、スタジオで本人に『アイドルらしく超ぶりっ子にしてみよう』と伝えつつレコーディングしてみたら、すごくよい仕上がりになりました」 TVアニメ「【推しの子】」の主題歌として、日本のみならず欧米でも大ヒットを記録している同曲のテーマは、「嘘」だ。アニメおよび原作漫画でメインキャラクターとなるのは、アイドルグループのB小町でいちばん人気のアイ。しかし「アイドル」の前半は、圧倒的なオーラを放つ彼女に羨望のまなざしを向けながらも、複雑な思いを抱える別メンバーの視点から歌われている。ikuraはそのイメージをこう説明する。 「この業界や、その中で揉まれながらもひたむきに活動しているアイドルの狂気的な部分をエッセンスとして取り入れました。誰しももっている、自分ではコントロールできない本能の部分を意識的に引き出す。この曲のヴォーカルは時折裏返っていて、情けなく聞こえる部分があるかもしれない。だけど、YOASOBIでは、人に見せづらいところも含めて曝け出そうと決めているので、最後までやり切りました」 YOASOBIの楽曲には、誰もあえて人前では口にしないようなネガティブなものも含めて、現代的なモチーフが反映されている。「ポップミュージックは時代の写し鏡」とはよく言われるものの、このふたりほど真摯にそこと向き合うつくり手は珍しいだろう。Ayaseはいまの時代を「全体的に暗く、みんなのメンタルも落ちている気がする」という。 「特にコロナ禍以降、帰る場所を失ったと感じている人が多いように感じていて。すでに新しい世界に入っているのに、もとの場所に帰ろうとするから、心が病んでしまうんだと思います」 一方でikuraは、この時代を「情報過多」だと指摘する。「目の前にある道をまっすぐ生きていこうと思っていても、さまざまな情報を目にしやすい時代なので、いろんな影響を受けがち。自分らしくいるためにも、インターネットの世界とは適度な距離感を心がけています」と心情を吐露した。 だから音楽で元気を出してほしい、という安易な解決方法はもはやこの時代に通用しない。そのことはふたりがいちばんよくわかっているはずだ。絶望と希望のどちらかに寄りかかることなく、YOASOBIは、いまを生きる人たちにとって限りなく「リアル」な音楽をつくり続ける。その行為にこそ、オーディエンスは勇気付けられるのではないか。 そんなふたりの目線は、すでに世界へ向けられている。いま彼らが掲げている最大のミッションは、YOASOBIを通してJポップを海外に浸透させること。23年8月には、アメリカはロサンゼルスで開催された88 rising主催のフェス「Head In The Clouds Los Angeles」に初めて出演。アジアも含めて、世界にしっかり食らいついていきたいと話しつつ、Ayaseは最後にこう呟いた。 「なにより自分たちが楽しむことを忘れたくない。ちゃんと幸せでいたい。それがいい音楽をつくる秘訣だと思ってます」
写真:岩澤高雄(The VOICE MANAGEMENT) スタイリング:船橋翔大 ヘア&メイク:nari 編集&文:長畑宏明