Awichが語る、ジェイ・Zとの邂逅、コミュニティの底上げと自身の成長、フジロック出演
フジロックの大舞台に挑むことの意味
ーそして、今年の7月にはフジロックのGREEN STAGEに立つこともアナウンスされました。GREEN STAGE といえば約40,000人のキャパシティを誇る最大のステージということで、まさにヘッドライナー級でもあります。 Awich やばいですよね。ダッチ(演出を手掛ける山田健人。RADWINPSや藤井風らのステージ演出も手がける)にも「大丈夫?」って言われて(笑)。でも、チームもそれなりの仕事をやってくれると思うし、私もそれに応えるパワーを持っていけると思うし。このステージが今までの最大、最高レベルなんだとしたら、さらにその上を作っていく挑戦もできるし。チームのみんなは本当に大変だろうし、感謝しています。私もプレッシャーを感じますが、キャリアでそういうレベルに来ているっていうことは本当に嬉しいし、本当に感謝です。 ー世界中のオーディエンスが集まるフェスでの大きなステージ、ということですが、意気込みはいかがですか? Awich さっきもお話ししたように、コーチェラのヘッドライナーも見てきてめっちゃインスパイアされたし、みんなで人の心を動かして揺さぶるような、ステージを観た人が自分自身のことを「もっと知りたい」とか「もっと表現したい」と思えるようなステージにしたいと思っています。そこに関してはずっと変わらないことなんですけど、(オーディエンスの)規模が大きくなると、こっちもモンスターを作り上げないといけないから、どんなモンスターを作り上げるか、ということになってくる。私はただ、それの真ん中にいるだけで、本当にみんなで作り上げているものだから、協力しあって猛獣を作り上げようと思ってます。 ー初めてAwichのステージを観るオーディエンスも多そうですし、ぜひ圧倒してほしいなと思います。 Awich ライブそのものもそうですけど、丁寧に私という人間の存在を伝えることをしようと思っています。初めて観た人は、そこからまた飛び火していってほしいですね。もちろん私をずっと観てくれている人たちやツアーに来てくれたみんなには、「俺たちがいくぜ」って自分も一緒にステージを作り上げてるっていう気持ちで見てほしい。本当に、私1人じゃ無理だから。 ー少し前にはONE OK ROCKとの対バンもあり、2021年にはRADWIMPSとの共演も果たしています。他にもROCK IN JAPAN FESTIVALやVIVA LA ROCKへの出演があり、DEAD POP FESTiVALにもラインナップされている。ヒップホップのコミュニティを越えてロックのステージにも果敢に立っている印象がありますが、表現者として、そこはどのように認識していますか。というのも、この二つのステージを行き来しているラッパーはまだ珍しいのかなと思って。 Awich それについては、アーティストとしてのキャリアや、ヒップホップ全体のキャリアのことをチームと話し合って、決めたことでもあります。もちろん今、若い人たちの間では(ヒップホップが)カルチャーとして根付いているし、実際にちゃんと食っていけるヒップホップのアーティストも増えていると思うし、ヒップホップのフェスも増えていますけど、それがロッキンくらい根付くかどうかって、どれだけそのパイを大きくするかに掛かっていると思うんです。今のままだったら、消えてしまう可能性も十分にあると思う。 ラッパーの収入源として、クラブでのライブは大きいと思うんですけど、クラブはもともと人が来る場所だし、ラッパーにしてみたら簡単にギャラがもらえるイージーギグなんですよ。でも、例えばクラブの流行がEDMになった時に「ヒップホップのアーティストはいらないよ」って言われたら? ずっとクラブでしかライブをやっていなかったり、クラブだけのライブツアーしか経験していないアーティストたちはどうすればいいか分からなくなってしまいますよね。それに、日本で根付いているフェスにも認知されていないっていう事態になる可能性もある。そうならないためにも、そして、自分のキャリアを広げていくためにも、ロック側のファンにも「こういう音楽があるよ」という感じで、自分でパイを置きながらどんどん人を増やしていって……ということをやっていますし、そうした役割をしないといけないなとも思っています。 ー先ほども「自分がこのコミュニティの底上げをしていく」と仰っていましたが、こうした姿勢にも繋がる話だったのですね。 Awich 本当だったら、もっとたくさんのラッパーにロッキンやビバラ、フジロックも出てほしいし挑戦してほしいけど、まだそういうことをしているラッパーは少ない。でも、私がやり続けていることによって、「自分も挑戦しようかな」って思う奴らが増えてほしい。言っても分からないし、「アリとキリギリス」みたいな話ですよ。コツコツ地方行って出演してるのをみて「何であいつあんなフェス出てんだ? クラブでやる方が楽なのに」って言うキリギリスもいるかもしれない。でも今やっておけば、来る停滞期に備えられるかもしれないでしょ。そのキリギリスの分もね。 ー今の若いラッパーは、SNSの追い風もあってインスタントにヒット曲が生まれて、初めて訪れる地方のクラブに呼ばれてもみんなが自分のことを知っている、というところからライブがスタートすることも少なくないんですよね。そうなると、いかにライブを盛り上げるかというテクニックやコントロールの仕方も変わってくるわけで。 Awich そうなんですよね。消費されやすくなってしまうし、自分が自分のキャリアをコントロールすることが難しくなってしまう。クラブでのパフォーマンスは、自分のマイク一本でどれだけ勝負するか、という裸一貫のパフォーマンス・スキルを磨くことはできますけど、それより洗練されたステージまでにはなかなか辿り着けない。アーティストとして芸術を作り上げたいんだったら、クラブに来るお客さん以外の人が見た時に「何だこれは」と思うものを作っていかないといけないと思っています。 ーAwichさんも次世代、年下のラッパーの子達に、直接そういう考えやアイデアをシェアすることってありますか? Awich ついてきてくれている奴には言ってるし、同時に「一緒に来てくれてありがとうね」っていうことをめっちゃ伝えています。それが自分もいけるって思うことに繋がると思うので。今回のツアーに参加してくれたチコ(CHICO CARLITO)やオズ(OZworld)たちも、Zeppや武道館でワンマンもできると思うし、ロッキンみたいなフェスにも出れると思う。あとは、「どうしたらこんなライブができるんですか」って聞いてくれる人には言っています。あんまり求められてもないのに人に助言ばっかしてると、うるさいオバサンになっちゃうから。でも、まずは私から見せないとダメなんですよ、ほんとに。それに、私は本当にチームの助けというか、「こういう考え方があるんだよ」みたいなことをみんなで話し合っているし、みんなが言ってくれる。言ってくれるまで気づかないんですよ、自分では。