古代アステカ「死の笛」の音色が「不気味で恐ろしい」のはなぜ? 最新研究でメカニズムが判明
古代アステカの遺跡からは多数の陶器または粘土製の笛が見つかっており、その独特な頭蓋骨の形から「死の笛」と呼ばれている。この笛の構造と音色が人間の脳に与える影響を調査していたチューリッヒ大学の研究者たちが、その成果を発表した。 【写真】「死の笛」 「死の笛」が初めて見つかったのは1999年。メキシコシティのトラテロルコ遺跡を発掘調査した際、風神エヘカトルを祀る神殿の主階段の基部から、生贄として斬首された20歳の男性の遺骨が発見された。その遺骨の両手にはそれぞれ1つずつ、2個の髑髏型陶器の笛が握りしめられていた。 死の笛は、人間の絶叫によく似た耳をつんざくような音を発生させる。用途についてははっきりとは分かっていないが、学者たちが立てた仮説の中には、戦いの際に何百人もの戦士たちが叫び声を上げるために同時に笛を吹いたというものや、神の象徴として生贄を捧げる儀式や宗教的慣習で使われたというものがある。 そんな死の笛のメカニズムについて、チューリッヒ大学の認知・情動神経科学者であるサシャ・フリューホルツ率いる研究チームが本格的な調査を行った。まずは笛の構造。ベルリン民族学博物館所蔵の死の笛をCTスキャンにかけたところ、内部に管状の細いダクトのような通路や様々な形の空洞を確認した。この独特の形によって、笛を吹いた時の空気の流れが狭い通路を通った時に加速し、圧力が低い部分が生じるというベンチュリ効果が生まれ、死の笛独特の荒々しく突き刺さるような音色となるのだという。 そして、研究チームはトラテロルコ遺跡から発掘された2つの死の笛の音と、笛を撮影したCTスキャン映像から作った粘土によるレプリカに低・中・高の空気圧で息を吹き込んだ音を録音。ヨーロッパにルーツを持つ70人の被験者に、笛の音と自然の音風景、水の音、都市の騒音、合成音を聞かせた。 すると、被験者は共通して死の笛の音に対して「非常に不気味で恐ろしい」と評価。さらに、その中から32人を抽出して死の笛を聞いている最中の脳活動をfMRI(磁気共鳴機能画像法)で調べたところ、低次聴覚皮質領域が活性化していた。この部位は、例えば悲鳴や赤ちゃんの泣き声、サイレンなど嫌悪や不安を呼び起こすような音に反応して活発になることが知られている。この結果により、死の笛の音はおそらく古代アステカ帝国の人をはじめ、あらゆる人類に恐怖と警戒を与えるものということが分かった。 そして最も興味深かったのは、被験者は死の笛の音を人工の音であると同時に、人間の声や叫び声のように、自然で有機的な起源を持つものと認識していたことだ。この発見についてフリューホルツは「これは、古代の多くの文化において自然の音を楽器で再現する伝統と一致しており、神話上の存在を模倣する死の笛の音の儀式的な側面を説明できるかもしれません」と話す。