ジャパネットが手がけた「長崎スタジアムシティ」 開業1カ月で55万人来場のワケ
複合施設ならではの工夫で集客力アップ
スポーツ興行の面でも新施設の効果は顕著だ。V・ファーレン長崎の平均観客数は、旧本拠地の8098人から大幅に増加。シーズン途中に開業したため3試合のみだったが、いずれも2万人近い観客を集めた。長崎ヴェルカも、前シーズンの平均3818人から5457人へと観客数を伸ばしている。 両クラブとも移転前と比較し、チケット収入は増加した。さらに、スタジアムとアリーナは徒歩1分ほどと距離も近いため、「サッカーとバスケットボール、両方の試合を観戦する人が増えている」と折目氏は語る。 年間を通じて収益を安定させるには、平日や試合のない週末の集客が重要となる。そこで鍵を握るのが、商業施設やオフィス、ホテルの活用だ。商業施設ではイベント開催などを実施するほか、今後はオフィス入居者への特典も検討しているという。 そのほか、日常的な利用を促進するため利便性の向上に注力する。施設全体でWi-Fiを完備しているほか、独自アプリを通じた情報発信や決済システム「スタPay」の導入など、デジタル面でのサービス強化を進めている。 アプリ上で決済すると、通常は入手できない商品と交換できるポイント還元や、駐車場の自動割引などに活用できるという。登録者数は開業時の40万人からさらに増加し、50万人を突破した。 また、専門ガイドによるスタジアムツアーの予約が相次いでいるほか、修学旅行の受け入れも実施している。学生たちをピッチまで案内し、大型ビジョンに学校名を映し出すなど、思い出に残る体験を提供している。
国内外の認知度を高め、黒字化を目指す
一方で、固定席の活用は課題として残る。サッカースタジアムという特性上、2万人分の座席は固定されているため利用の幅が限られるからだ。アリーナのように座席を収納できないため、座席エリアの新たな活用方法を検討している。 サッカースタジアムを核とした複合型施設という新たな試みについて、折目氏は「集客や売り上げは順調だが、施設を長期的に運営していく難しさも感じている」と語る。総事業費1000億円を投じた施設の投資回収は、25~30年間での実現を計画するが、まずは初年度からの黒字化が重要な目標となる。 認知度の向上も今後の課題となる。国内での知名度を高めるためにメディアを通じた情報発信に力を入れていく考えだ。同時に、海外からの集客も視野に入れており、直近では韓国の旅行代理店が集まる場でプロモーションを実施したという。 「特徴的な施設ということで、海外の方々にも強い関心を持っていただいている。ただし、認知度はまだ低い点が課題」(折目氏) 長崎スタジアムシティが黒字化を実現できれば、新たなモデルケースとなる可能性がある。「われわれも使命感を持って運営に取り組んでいる。誰かが成功事例をつくらなければならない」と折目氏は意気込む。 同施設の成否が、日本のスタジアムを核としたビジネスの未来を左右するかもしれない。 (カワブチカズキ)
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