〈インターネット時代の書店の生き残り策〉オンライン書店との“共存”から図書館とのハイブリッド戦略まで
スマホで大衆化したオンライン書店
もう一つの脅威はオンライン書店である。特にあらかじめ買いたい本が決まっているとき、検索すると即座に見つかるので便利だ。宅配してくれるのでまとめ買いをしても持ち帰らなくてすむ。 オンライン書店を含むインターネット通販は90年代末からあったが、大きく拡大したのは10年代である。総務省「家計消費状況調査」でインターネットを通じて注文をした世帯の割合をみると、世帯主が50歳代以下のケースにおいて15年から23年の間に約4割から約7割に上昇。インターネットを通じて注文した書籍の額は倍増している。 その背景はスマートフォン(スマホ)をみな持つようになったことだ。趣味や仕事のツールだったインターネットが一気に大衆化した。新型コロナウイルス蔓延による外出制限の影響も大きかった。
電子書籍脅威がとなる3つの理由
3つ目の脅威が電子書籍である。「家計消費状況調査」によれば、20年以降急激に利用が増えている。出版科学研究所「出版指標年報」による出版物の推定販売金額にも反映されている。分類に電子出版が登場した14年は1144億円だったのが、22年には5013億円となり雑誌を追い越した。 牽引しているのはコミックで、電子出版全体の9割を占める。コロナ禍による巣ごもり需要もあって19年以降増加ペースが加速した。 今後、電子書籍は本格的な普及期に入り、さらに書店の経営環境を変えるだろう。現在はコミックが中心だが、いずれ全ジャンルに拡大する。紙の本に愛着を感じる人はまだ多いと思われるが、これからはそうとばかり言っていられないだろう。根拠は3つある。 1つ目は、音楽配信サービスの浸透ぶりと同じような経緯をたどると考えられる。既にコミックについては電子媒体で読む習慣が浸透し、紙に対するこだわりは弱い。90年代に週刊コミック誌に慣れ親しんだ世代が年齢を重ね、いまやコミック全体の読者層は40歳代までに広がっている。電子書籍に抵抗がない層が主流派になる。 2つ目は老眼だ。総務省「人口推計」によれば、概算値ベースだが24年8月1日に50歳以上の人口が半分を超えた。老眼は40歳前後に兆候があらわれ50歳を過ぎる頃にはほとんどの人が自覚する。文庫本の販売数が激減しているのも老眼と無関係ではないだろう。 紙面の文字が小さくて読めないときには拡大鏡を使うが、タブレット端末の画面を指2本で拡大するほうが簡単だ。新聞も一度電子版に変えると紙の新聞の字面を追うのが苦痛になる。 3つ目は書棚の問題である。読書を趣味とする人でも、自宅に紙の本を置く場所がないと新しい本を買うのに躊躇する。都市部のコンパクトなアパートやマンションに住む人にとって書棚の問題は切実だ。買った分だけ捨てればよい話ではあるが、本好きにとって本を捨てる、あるいは売却するのは忍びない。そうした困りごとにも電子書籍なら応えてくれる。 置き場所に関連して、電子書籍には持ち運びしやすいというメリットもある。外出先や旅先で読むために、以前は鞄に文庫本を入れたものだが、鞄が重くなるのでせいぜい数冊だ。それに対し、スマホやタブレットに電子書籍を入れておけば何冊持っても重くならない。まるで書棚ごと鞄に入れるようなものだ。