にしおかすみこの認知症の母、自らの糖尿を気にしてダウン症の姉とダイエットを考える話
ローテーブルを見ると…
ふと目線をローテーブルに移す。いや食べている。小ぶりの丸いパンが5個入りのプラスチックケースに、残り1つ。……その横にレジ袋が1つドンっと乗っている。中を見るとロールケーキ、バナナ1房、缶ジュース数本、溶けたスティックアイス数本。 母が「昨夜のパクソ土産さ。何回買ってくるなって言っても、酔っぱらってるから聞いてないし、聞こえてないし。早く食べないと、また後で起きて来てパクソがお姉ちゃんに食え食えうるさいから」と憤る。 勧められたら際限なく食べる人と、食べたことを忘れてまた食べる人。 母よ。食欲があるのはいいけれど、糖尿だよ。 きっと好きなものを我慢してまで長生きしたくないのでしょう? でも姉のために生きるのでしょう? そして、それは食べたいもの? さりげなくそれらを回収し、台所に移しながら 「小っちゃくてもパン4つは食べ過ぎじゃない? もう~朝ご飯作ったのに」と言ったら、 母はテーブルに放置してあったメモを見返し「ああ! キンじゃない! キレ! 一切れ! こんなもん先生に見せたら一生、注射から抜け出せないよ。危なかったー。ね、これ、チャチャッと『斤』に横線引いて、横に『切れ』って書いてくれない?」と。私の言葉が素通りしている。
どうでもいいが
改めて間違いだらけのメモ紙を受け取り眺める。……どうでもいいが達筆だなあ。私はスマホやPCばかりのせいか、簡単な漢字すら書けないことが多々ある。 「一斤って漢字で書けるの凄いね」と言ったら、 「あん? あんたさ、自分で気づいてる? 時々、会話の本筋から外れるよね。見当違いなこと言うよね。大丈夫? そんなんで社会で上手くやれてるのかい?」 大きなお世話だ。お互い様だ。私なりの気遣いだ。どの返しが正解かもわからず、黙って紙を母の言う通りに訂正し渡す。 「どうもです。……ねえねえ、台所から美味しそうな匂いがしてる。あ、そうだ、ママ注射したのにまだ何も食べてない。何でもいいから、あんたの負担にならない範囲でママ食べられそうなものある?」 「樹海の味噌汁」 「あん? 10回でも? 20回でも? あんたが作ってくれたもんはなーんでも有難く食べるよ。すまんね」 ……焼き鮭は? アスパラと卵炒め、漬物……そこそこ作ったよ。どうする? 本当にお腹空いてる? 私、迷うよ。 これも比較的、平穏な日。 ↑と書くということは、そう、比較的、荒れた日も出てくる。いつものことだがもう少しお付き合いいただきたい。