西陣織を世界へ 「五代龍村平蔵」襲名の龍村育さん 躍動する「和」に織物の未来託して 一聞百見
「これ、織物ですか?」
思わず聞き返したのはブルーが美しく一見、抽象画のようなアートパネル。よく見ると、なんとも繊細、かつ立体感のある織物でできていた。五代平蔵を襲名した龍村さんが新たな分野に挑戦した作品だ。
「復元と創造、2つの要素があります。『羅(ら)』という織物で、4~5世紀に日本に入ってきた薄く透ける織り技法の一つ。その上に柄をのせていく手法で制作しました」と龍村さん。
かつては平安貴族の烏帽子(えぼし)などにも用いられたが、難しい織り方で、一度は途絶えたそうだ。新作も、透ける夏の帯に着想を得て技法を再解釈したもの。下の台には金銀箔(きんぎんぱく)が施され、輝きが透けて美しい。遠目に見ると…。
「いつか訪れてみたいと思っている英国のリゾート地、ワイト島の海岸線を表現しています」
なるほど。織物の可能性がまた一つ広がる。自身、大切にしているのが、初代平蔵の「最高之品質」という言葉だ。
現代で品質とはクオリティーの意味で使われるが「それだけではなく、品は上品さや品性、質は心の豊かさを。それらが満たされるような美術織物を制作したいと思います」。
和装業界は苦境が続いている。かつての日常着から礼服となって久しいが、新型コロナ禍でさらに厳しくなった。着物は間違いなく日本文化を象徴する民族服だが、今やそれを身にまとうことは「たしなみ」であり、「教養」レベルになっていると感じている。逆にそれが原動力でもあった。
「ここまできたら失うものはありません。何もしなければただ座して死を待つのみですから」と表情を引き締めた。
「今や世界はボーダーレス。アーティストや職人のみならず、海外に出ることへの抵抗感もない時代です」
そんな決意も新たに取り組んでいるのが、さまざまなクリエーターたちとのコラボレーションだ。
気鋭の日本画家、福井江太郎さんとは、絵画を帯で表現する「鑑賞する錦帯」を。ガラス工芸作家の西中千人さんとは、歴代平蔵の織り文様を取り入れた「龍村ガラス呼継(よびつぎ)」と名付けた新作を発表した。