西陣織を世界へ 「五代龍村平蔵」襲名の龍村育さん 躍動する「和」に織物の未来託して 一聞百見
なるほど、帯にもストーリーがある。優しい色使いも現代風だ。
「今の着物は昔に比べて色調もソフト。帯も洋服感覚で同系色を合わせる傾向が強いので、使いやすさも考えました」
一方、船出する宝船の図柄を織り上げた「宝来帆船図」は、「紋綴(もんつづれ)」という織物だ。
「初代の意匠に工夫を加えたものですが、ねらいは技術継承です。これは30代の職人さんが手がけたんですよ」
伝統を踏襲し、技術を受け継ぎながらも新たな創作に挑む。それこそが老舗メーカーの真骨頂だが、まさに初代平蔵こそがその象徴だ。奈良・正倉院などの古代の織物の研究や復元に取り組み、さまざまな技法で新たな織物を生み出したクリエーティブディレクターだった。
「その五代目を受け継ぎ、一表現者としてこの道を進むのが何よりうれしいですね」と破顔した。
■文豪うならせた「芸術品」
初代龍村平蔵は、大阪の裕福な両替商の一族出身。幼少期は茶道や謡(うたい)、俳諧などに親しんだが家業が傾き、若くして西陣織の販売を始めた。
やがて織物の制作に携わるようになり、明治27(1894)年に創業。高浪(たかなみ)織など多くの織物を生み出して高く評価された。また、正倉院や法隆寺に残る古代裂(ぎれ)や、茶道具に用いられた渡来の名物裂などを研究、復元に力を尽くしている。
「やはり初代にひかれますね」という龍村さん。新作にも初代へのオマージュが見える。なぜかと問うと、「生き方がすごい。何より織物に対する情熱がすごいと思います」。
初代は研究熱心で、次々と独創的な新しい織物を発表した。経糸(たていと)と緯糸(よこいと)で織り出される布にこれほど多様な表現ができるのかと驚いたのが芥川龍之介だ。蒔絵(まきえ)の如(ごと)き、七宝の如き、陶器の如き、などと例を挙げて「種々雑多な芸術品の特色を自由自在に捉へている」(「龍村平蔵氏の芸術」)と絶賛している。
「龍村の表現方法の一つに〝~が如く〟があります。モチーフがまるでそこにあるかのように織物で表現することで、新作では例えばこれ」と見せてくれたのが「彩釉鳳凰錦(さいゆうほうおうにしき)」だ。