西陣織を世界へ 「五代龍村平蔵」襲名の龍村育さん 躍動する「和」に織物の未来託して 一聞百見
日本随一の高級帯の産地、京都・西陣。なかでも〝龍村の帯〟といえば高い芸術性で知られ、芥川龍之介が「恐るべき芸術的完成」と称賛したほどだ。文豪をうならせた初代龍村平蔵から、今年で創業130年。その節目の年に、ひ孫にあたる龍村美術織物社長、龍村育さん(51)が五代龍村平蔵を襲名した。初代平蔵(1876~1962年)が残した言葉「最高之品質」を継承しつつ、一表現者として邁進(まいしん)したいという龍村さん。和装離れが進む現代で模索する道とは―。 ■織物を現代のアートに しっとりと輝く絹地の風合いに、きらめく金銀糸の華やかさ。会場には上品な帯がずらりと並び、訪れた人のため息を誘っていた。11月下旬、東京・日本橋高島屋で開かれた襲名記念展の一コマである。 「コンセプトは『和の躍動 和の解放』です」という龍村さん。同社は、令和の即位の礼での高御座(たかみくら)の裂地(きれじ)や祇園祭の懸装品などを手掛けてきた老舗だ。 「古くは明治維新後の洋装化、近年でも新型コロナウイルス禍がありました。和装業界は厳しいが、培ってきたデザイン力や織りの技法など、弊社には確固たる最高のものがあります」と自信をのぞかせる。 その上で「世界的な潮流でもありますが、蓄積された美意識や技法を〝再解釈〟し、現代に通用する美術織物をアートの域まで高めたい。躍動、解放という指針にはそんな決意を込めました」と話す。 そんなメッセージを具現化したのが、襲名記念で新たに発表した新作帯(5柄6種)である。例えばこれまであまり使ってこなかったという雲のモチーフに挑戦、五代目の感性で仕上げた。 「この『瑞雲麗峰錦(ずいうんれいほうにしき)』(袋帯)は躍動を示しています。湧き立つ瑞雲(めでたい前兆として出現する雲)の表現にはいろいろな技術を使いました」 確かに渦巻くパステルカラーの雲は軽やかで、よく見るとそれぞれ質感が異なる。その奥に配されているのは…。 「霊峰、つまり富士山です。これは初代から四代までの平蔵の象徴で、それを超えていこうという思いを込めました」