「さっさと終わってお酒飲みたい」第168回直木賞の小川哲さん会見(全文)
最初の1杯に決めている銘柄があれば
記者:中日新聞の谷口です。受賞おめでとうございます。 小川:ありがとうございます。 記者:まずお酒を飲みたいとおっしゃっていたので、最初の1杯は、もし決めている銘柄とかがあったら。 小川:いや、僕、お酒の味がまったく分からないので、アルコールの入ったものであればなんでも、全て同じです。 記者:宮部先生の講評で、やはりこれだけ大きいほらを書くっていうところと、これだけほらを書くにはそもそも史実をちゃんと知らなくては書けないっていうふうに宮部先生は講評されていたんですけれども、今おっしゃったみたいに、建物とかが残っていない、基本もう実物のものっていうのはほぼ残っていないような満州を書くっていうことを通して、小川さん、そこに、何が面白さというか、面白いもの書きたいとおっしゃっていたので、どこに面白さを感じたのかを伺えますか。 小川:満州は、実は建物ほぼ全て残っているんですよね。で、今も中国人たちが使ってるんですよ。だから満州に建物が残っていないっていう言い方はちょっとあれかもしれないんですけど。どういった質問でしたっけ。 記者:満州を、虚構を通じて満州という国とかの、その時代ですね、を書くっていう試みをどうして、面白いと思うきっかけだったりだとか、書いていて面白いなと思った瞬間がありましたら。 小川:満州国っていうのはかなり人工的に造られた建築物でもあってっていう見方もできて、もちろんその建築、満州っていう建築物の中には実際の建築物があって、建物があって、その都市をつくるために。
SFや世界の文学から受けた影響は
で、それを書く僕自身も、小説を書くっていう作業自体が1つの建築なのかなっていう、僕は建築について詳しくないころから、小説を書く行為が建築と似てるんじゃないかなって思ってたところがあるので。その建築っていう言葉を通じて、普段、僕がやっている小説を書くっていう仕事と満州っていう国が接続できるんじゃないかなっていうのが書こうと思ったきっかけですね。 記者:質問の中で、クイズ小説だったりSF、もともとSFでデビューされて、ただ、自分で書くときにはジャンルを意識されていないということがありましたが、書き方として、ご自身が小説を執筆されるときにSFから受けた影響だったりだとか、あるいは世界の文学から受けた影響っていうのはどういうふうにありますか。 小川:世界の文学から受けた影響っていうと、ちょっと自分でも正確には分かんないですけど、でも小説はすごく自由である。やっぱり小説を書こうとすると、こういうことをしちゃ駄目だとか、こういうことをしないといけないとか、そういう思いにどうしても人間駆られてしまうというか、なんと言うか、小説自体が持つ重力にすごい引っ張られてしまう瞬間っていうのがあるんですけど、世界中にはもうとんでもない小説がいっぱいあって、だから何をやっても面白ければ許されるっていうところは、いろんな小説を読んで僕が学んだことかなと思いますね。 SFは、SFから学んだというか、僕がSFが好きな理由でもあるんですけど、やっぱり世の中って多くのことが、その場の感情とか、なんと言うか、勢いとか、なんと言うのかな、コネとか、分かんないですけど、そういったもので決定されていくことも結構多いんですけど、SFって僕の中ではやっぱり最後まで理性と、あと科学、科学的な思考だったり科学技術だったり、そういったものを最終的には信用しているというか、なんと言うか、冷静になって、科学的に、論理的に、理性を持って、何が正しいのかを考えたいって思ってる人が書いていることが多いと僕は思ってて、なんか読んでて心地よいというか。僕もそうあってほしいと思う人間なので、そこがSFと僕を結び付けている部分なのかなっていうのは思います。