ネット回線が不調の時に自動でモバイル回線に切り換えられたら便利じゃないか!? 1万円前後で買えるTP-Link ER605で構築してみた【テレワークグッズレビュー】
テレワークが普通になってから、自宅のインターネット回線の重要度は急上昇した。いまや遊びから仕事までネット回線は必須。しかし、家のネット回線は通常1本、テレワーク中にその回線にトラブルがあると、それだけで仕事にならなくなってしまう。とくに商談先とのWeb会議中にトラブルになったりすると大変だ。いざとなったらスマートフォンのテザリングなどでしのぐ方法もあるが、ここは1つ、家全体をトラブルから守る方法として予備回線を用意してみてはどうだろうか。そこで、今回レビューしてみたのが、回線の切り換えまで自動化してくれるルーター、TP-LinkのER605となる。実のところまだ試行錯誤中ではあるが、今回はそのレポートをしたい。 【この記事に関する別の画像を見る】 ■ VPNルーターだが、WAN3回線のロードバランスに対応 ER605について簡単に説明すると、本来はVPNルーターで企業のネットワークで拠点間をVPNで結ぶためのルーターだ。価格は1万円前後。型番のほかに「Omada ギガビット マルチWAN VPNルーター」という名称もあり、TP-Linkのビジネス向けクラウドソリューション「Omada SDN」に対応する。 VPNルーターではあるが、今回は「マルチWAN」として複数のWAN、つまりインターネット回線を使う機能を使う。これは、複数のネットワークを接続しておき、状態に応じて自動で振り分ける機能。たとえば、A、Bの回線につないでおいて、混雑具合に応じて自動で振り分けることもできる。 そして、もっと簡単な設定として、Aのメインの回線があり、もし、Aに何らかのトラブルがあって通信できない場合にBの回線に自動的に切り換えることができる。 たとえば、筆者の家では、1本の光回線を使用しておき、なんらかのトラブルがあった場合に、モバイル回線を使った予備回線に自動的に通信を切り換えるということをしている。 モバイル回線はいわゆる格安SIMで、そのときに容量が余った回線を適当にローテーションしながら挿入している。それを有線LANポートも使えるモバイルルーターや、SIMフリーのホームルーターなどに入れて、家のネットワークの入口に置いておくことになる。 ■ 2重ルーターやむなしだが、実際に問題はない 具体的な接続は、WAN側に光回線のルーター内蔵ONUと、モバイルルーターを接続する。こうすると、家に入ってくるときの光回線のルーターと、今回のER605で2重ルーターになってしまっている。しかし、VPNを使うこともないため、今のところ問題はなく順調に動いている。 設定としては、ER605の本体にある5ポートのうち、WAN専用が1、LAN専用が2、WAN/LAN兼用が2となっている。購入時はWANが1、LANが4になっているので、WAN/LAN兼用ポートの1つをWAN側に変更する。そのうえでWAN側の切り換え設定をしていくという手順になる。 ポートの切り換えは2つ目のWANを接続する前にする必要があり、まず、LAN側にローカルネットワークのハブやブリッジモード(アクセスポイントモード)に設定したWi-Fiルーターを接続する。Wi-Fiルーターのブリッジモードへの変更については機種ごとにやり方が違うので、その機種に合わせて設定してもらいたい。光回線のルーター内蔵ONUに接続するためにすでにブリッジモードに設定してあるのならそのまま使える。 そのうえでPCやスマートフォンのウェブブラウザーからER605を設定、最初にWAN/LAN兼用ポートの1つをWAN用に切り換える。そして、WANポートに光回線のルーター内蔵ONUを接続、もうひとつのWANポートにモバイルルーターを接続することになる。 今回の設定の場合、2重ルーターになるため、設定上のセキュリティに対する配慮も神経質になることもない。ER605は本来VPNルーターであるため、セキュリティを含めて高度な設定が可能であるが、一般向けルーターではないので、詳しくないのなら無理に設定をさわるよりも最低限の設定のまま使ったほうがいい。 設定時に注意することはネットワークアドレスの重複。ER605のデフォルトでのLAN側の設定は192.168.0.xxx。これと筆者のところのauひかりのルーターの192.168.0.xxxがダブってしまった。そのため、どちらかを変更しなくてはならない。 ER605のネットワークアドレスの変更は賢くて、WAN側とダブった場合でもいったんはLAN側から設定にアクセスでき、LAN側を変更するよう促される。そこで変更するととりあえず通信が可能になる。 それで問題ないのならいいが、もともとLAN側に固定IPアドレスの機器がある場合は、先に光回線のルーターのIPアドレスを変更したほうがよく、192.168.1.xxxでもいいが、これは重複する恐れがあるため、できればぜんぜん関係のない数字、例えば192.168.243.xxxといったものを設定したい。 参考までにIPアドレスの3番目の数字として筆者がよく見かけるのは、今回のような0、1、11、100、101とモバイルルーターに多い179だ。ダブらないようこれらの数値とは違う数字にしておくのがおすすめだ。筆者のところでは、auひかり傘下のネットワークアドレスが192.168.0.xxx、モバイルルーターのネットワークアドレスが192.168.179.xxxだったので、ER605のLAN側は192.168.56.xxxという設定にして、重複をなくした。 ■ WAN2回線の振り分けは、トラブル発生時のみ切り換えが簡単 WAN側を2ポート有効にして2つとも回線を接続すると、すぐにWAN2回線にアクセスするようになるが、それではモバイル側の回線があっという間に消費されてしまうので、通常は光回線を使い、光回線がトラブル時だけモバイル回線を使う設定を紹介する。 マニュアルは英語のみで専門用語も多用しているものだが、この部分に限ってみれば、読み解くのもそれほど難しくないだろう。 やることは、設定画面にログインして、[Transmission]から[Load Balancing]を選択し、[Basic Settings]タブから[Enable Load Balancing]にチェックを入れて[Save]で保存する。これはWAN側を2ポートにした段階で自動設定されていることもある。 次に[Link Backup]タブで[+Add]を押してPrimary WANに「WAN」、Backup WANに「WAN/LAN1」を選び、その下のModeで[Failover(Enable backup link when any primary fails).]を選ぶ。これで、通常はWANポートに接続した回線をメインにして、問題が起きた時にWAN/LAN1に接続したほうを使うことになる。 家庭内からインターネットへのトラフィックが非常に多く、回線を2本以上使わないとデータが滞ってしまう場合に回線を振り分けるような使い方の設定は一気に複雑になる。ここでは解説しきれないので、各自で設定してみてほしいが、残念ながら日本語の設定例といった情報は皆無に近いうえ、ER605は本来のVPNなどに使っていることが多く、WAN側の振り分けについては詳しい情報は見当たらない状況だ。 筆者も一応は設定できたのだが、狙いどおりの動きをしてくれない部分もあって試行錯誤の途中だ。現在はバックアップ用途以外に使い道がないので困ってはいないが、英語マニュアルや海外での設定情報を探しながら試行錯誤をしていくつもりだ。 ちなみに、設定時の注意点としては、設定変更後にすぐ反映される項目が多いが、再起動となった場合、ER605は再起動後に立ち上がりが遅い場合がある。その間、回線がストップするので、家族が使わない時間帯に作業するほうがいいだろう。 ■ バックアップ側の回線は、容量やコストに注意 組み合わせるバックアップ回線は、メインの回線が断絶するような場合、非常に多くのデータが流れるため、契約容量の少ないモバイル回線では一瞬のうちに容量オーバーになってしまう。かといって使わない可能性の高い回線を大容量で契約しておくのも無駄となるので、シェアや容量を貯められるプランがおすすめだ。 たとえばソフトバンクでは、スマートフォンとセットで使う月額1078円の「データシェアプラン」があり、親回線が無制限のプランなら50GBまで使え、親回線の容量が減ることもない。 また、MVNOの格安SIMでは容量の「永久繰り越し」ができるy.u mobileがある。月間5GBで1070円。全く使わなければ容量は最大100GBまで貯まっていくので、トラブルが少なく、容量が貯まっていけばバックアップ回線として十分だろう。 ■ ER605は多機能、TP-Linkは複数WAN対応ルーターの選びがいがある TP-Linkのラインアップを見ると、ER605以外にも手軽に買えそうなマルチWANのルーターがある。「TL-R470T+」はまさにロードバランス用のルーターになるが、残念なのは各LANポートが100BASE-TXまででギガビットに非対応なこと。そのかわりER605の1万円前後に対してもう少し下の価格帯で販売されている。 また、「ER7206」は今回紹介のER605にSFPポートを追加したような構成。新品価格は3万円前後だ。 そしてER605は2つのバージョンがある。TP-Linkの製品にはよくあることで、バージョンによって全く別物になっている。V1はWAN側が最大4ポートまで対応可能となるが、V2にはあるUSBポートがない。筆者が使ったのはV2である。USBやWAN4ポートを使わなければどちらでも同じだと思うが、ファームウェアも別なので安定度などに違いがあるかもしれない。ちなみにUSBポートがあると、スマートフォン等を接続してモバイルネットワークのWAN側回線として使うこともできる。 いずれにしても、1万円前後でマルチWANに対応し、自動的にバックアップ回線に切り替わるER605はネット回線の信頼性を重視し、マルチWANへの興味、ほかの機能に興味があるのなら検討してみる価値があるだろう。 ちなみに、ここまで読んでもらって悪いのだが、障害時にモバイル回線に切り替わるだけでいいなら同じTP-Linkから「Archer MR600」が出ている。LTEの通信機能まで内蔵するため別にモバイルルーターを用意する必要もない。マルチWANで単純な回線バックアップだけでいいならこちらも検討してみてもいいだろう。 INTERNET Watch編集部員やライター陣が、実際に使ってオススメできると思ったテレワークグッズをリレー形式で紹介していく「テレワークグッズ・ミニレビュー」。もし今テレワークに困りごとを抱えているなら、解決するグッズが見つかるかも!? バックナンバーもぜひお楽しみください。
INTERNET Watch,正田 拓也